全米一高いとされるサンフランシスコ市内の共同住宅家賃ですが、2017年にはわずかではあるものの、下落傾向となっています。その原因はどこにあるのでしょうか? 今回は、サンフランシスコ市内の「共同住宅市場」の現況を探ります。

高い家賃を払える「高所得者」の雇用が頭打ちに?

前回は、戸建て転売事業者に対する不動産融資に関する、過去1年間の市況変化について触れました。今回は、ここ数年におけるサンフランシスコ市内の共同住宅市場について振り返ってみます。

 

[図表1]サンフランシスコ市内家賃推移

(Zillow社データをベースに筆者が作成)
Zillow社データをベースに筆者が作成

 

上記グラフは、サンフランシスコ市内の共同住宅家賃(2ベッドルーム)の推移です。2011年7月の3,027米ドルを底に、2015年12月には4,796米ドルまで約60%と大きく上昇しました。2015年12月をピークに、2018年1月には4,456米ドルまで7%値下がりしました。とはいえ、全米一(NYよりも)高い家賃水準となっています。

 

[図表2]サンフランシスコ市内共同住宅(5戸以上)における売買単価推移

パラゴン社データをベースに筆者が作成
パラゴン社データをベースに筆者が作成

 

売買価格(物件評価)はどうだったのでしょうか。家賃推移と同じように、売買単価も2015〜2016年をピークにここ数年はスローダウンし、2017年にはごくわずかに下落した可能性があります。

 

売買単価が下がっている原因は、単純に家賃水準が下がっているということも考えられますが、そのバックグランドを探ってみましょう。

 

[図表3]サンフランシスコ郡/サンマテオ郡の非農業部門雇用者数推移

出所:米国労働省
出所:米国労働省

 

上記図表3のグラフから、サンフランシスコ周辺の雇用者数は、継続して増加していることが確認できます。一方サンフランシスコ周辺も、昨年12月失業率が2.2%と、完全雇用状況を超えるまで低下しており、人材確保に相当なコストを払う必要が出てきています。

 

加えて下記図表4、図表5のグラフからもわかるように、所得水準の高いITおよびプロフェッショナル(弁護士・会計士等)部門の雇用増加が、2016年以降止まっていることが分かります。全米一高い家賃を払える高い所得水準の雇用者が、増えていないことによる影響が出ていると考えられます。

 

優秀な人材確保するためには、サンフランシスコは極めてハードルの高い都市となってしまっているようです。

 

[図表4]サンフランシスコ郡/サンマテオ郡のIT部門雇用者数推移

出所:米国労働省
出所:米国労働省

 

[図表5]サンフランシスコ郡/サンマテオ郡のプロフェッショナル部門雇用者数推移

出所:米国労働省
出所:米国労働省

SF市内から別の大都市への「人口流出」が増加

米国国勢調査によれば、2011〜2015年において、国外(その80%弱がアジア・欧州で占める)からの流入5万人を脇に置けば、サンフランシスコ市内から米国内他大都市へ人口流出が、その逆の流入を上回っていたことも特筆すべきでしょう。

 

他大都市からの人口流入は、主にシリコンバレー、ロサンゼルス、ニューヨーク、シカゴ、ボストンから、逆にサンフランシスコ市内から他大都市への人口流出先はテキサス、ネバダ、ポートランド、シアトルへとなっています。

 

またサンフランシスコ周辺では、1万人もの人がサクラメント等のセントラルバレーへ移動しています。この動きに伴って、共同住宅市場の好不況が左右されていることは容易に想像できるでしょう。

 

一方、共同住宅の供給面を見てみましょう。

 

2014年末時点、サンフランシスコ市内にある共同住宅在庫戸数は266千戸でした。過去の供給量を見ると、2004〜2013年でトータル19千戸の新築竣工、年間供給量は在庫全体の1%弱というのがサンフランシスコ市場の経験値です。

 

今後2020年までに竣工する供給数は約4千戸(2021年までに約7千戸)と増加傾向といえますが、全米他大都市での毎年何万戸単位(在庫の2〜3パーセントに相当)で供給される量からすると、サンフランシスコ市場の供給量はまだまだ少ない規模といえます。

 

サンフランシスコ市場における過去5年程度の労働人口増加数と比較すると、このぐらいの供給量では供給が需要に追いついていない状況が継続されることから、サンフランシスコ市場が供給過多で大きく値崩れが起こる可能性は、極めて少ないと言えましょう。

 

サンフランシスコ共同住宅市場は調整局面に入ったと言えますが、完全雇用状況で雇用者増加がそれほど望めない中ではあるものの、歴史的に供給量が少ないことから市況的には大きく落ち込むことはないのではないかと考えています。

 

とは言っても、どの程度価格が下がるか予想はつきません。筆者としては、2011〜2013年レベルに近付く現在に、買いに入る検討をすべきではないと考えています。

 

(本記事の内容は筆者個人の分析・見解です。)

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