悪条件も「発想を転換したデザイン」で長所に変える
デザインというのは何も、見た目を取り繕ったり見栄え良くしたりするためだけのものではありません。狙いはやはり、付加価値を高めることにあると思います。見栄えだけの問題ではないのです。
例えば商品性という言葉が使われます。それをどう設計するかという問題も、デザインの領域だと思います。
そこでは発想の転換も必要です。例えば、北向きの住戸や半地下の住戸というのは採光に難があるので入居者が決まらないのではないかと考えがちです。日本の住宅では南向き信仰が根強くあるからです。
戸建て住宅だろうがマンションだろうが、形式を問わず、住戸を南に向けようとします。夕方の西日も敬遠されますから、土地で言えば東南の角地、住戸でいえば東南角部屋が一番人気です。洗濯物や布団を日に干す習慣を重んじる日本人ならではの嗜好性ともいえます。
ところが実際には、どうでしょうか。採光を十分に確保できないという条件を逆手に取り、その条件に何らかの価値付けができれば、入居者は確保できるはずです。
例えば、北向きというのは、年間を通して安定した光を確保できます。南向きの住戸は夏にはぎらぎらの太陽から強い光を受けざるを得ませんが、それを避けることができます。日の光は高さや強さが、季節によって異なります。それも、北向きなら気に掛けずに済みます。安定した光を取り入れるには都合のいい環境なのです。
北向きの傾斜地にマンションの設計を頼まれたこともありますが、北向きに13mといった普通の倍の間口を取って、段々のマンションのプランを出しました。
北向きといっても、同じ面積をテラスにした、間口の広いマンションになりました。このプランはほとんどが北向きということで採用にはなりませんでしたが、建築家としては一度は実現したい計画です。
半地下の住戸は、例えば音楽を大きな音で楽しむことができます。地上階であれば、周囲への音漏れを心配せざるを得ません。しかし半地下なら、周囲を自然の防音壁で囲まれているようなものです。
最近では防音技術もかなり進んできて、少しも外部に音漏れをしないマンションも十分可能です。音楽を大きな音で楽しみたいという入居者にとってはもってこいの条件です。
半地下の眺望は楽しめそうにない点には目を向けず、音漏れをそう気に掛けずに済むという点に目を向ける、つまりいい面を見るようにすることが大事です。
立地が悪い場合はターゲットに合わせた商品設計を
郊外の駅から遠い立地条件の悪そうな土地では、ターゲットを絞り込む勇気が必要です。
ペット好き、クルマ好き、オートバイ好き、音楽好き・・・など特定の嗜好を持つ層を対象に商品設計を考えるのがポイントです。立地条件から何を読み取り、それをどのような特徴に結び付けるかが問われます。その特徴がそのまま競争力になっていきます。
東京の練馬区では、農園付きの賃貸住宅を提案したことがあります。東京区部とはいえ、練馬区内には指定建蔽率の低い場所がまだまだ広がっていて、そこには農地もたくさん残されています。賃貸住宅の入居者が出した生ごみを農園で堆肥として用い、そこで育った花や野菜をその見返りとして入居者に差し上げるという仕組みを考えたこともあります。
この提案では、農園を運営する農家と組むことが前提です。土地を活用するのに併せて、新しいサービスを入居者に提供する体制を整える、という発想に立ちました。商品設計ではハードの提案だけでなく、ソフトの提案を組み合わせることが必要です。
例えば、ペット共生住宅という商品設計が考えられます。東京・野方の130坪ほどの土地に地上3階建てのペット共生型の共同住宅を建てたことがあります。
この住宅では、散歩帰りのペットの足を洗えるようにシャワーを備え付けたり、リードなしで思い切り遊ばせることができるように屋上にドッグランを設けたり、多少のキズが付くことを想定し床材や壁材を選択したりするなど、設備・建材面でペット共生を強く意識しています。
特徴的なのは、こうした共同住宅のコンサルティングを手掛けてきた会社と組んだことです。そうすることで、ハード面の仕様でペット共生を実現するだけでなく、トリミングやシャンプーなどペット向けの各種サービスの提供も可能にしています。
ペットとともに暮らす人が増え、こうしたペット共生住宅へのニーズは高まっています。しかし、安易にペット飼育可とするだけでは、ペット共生住宅とは呼べません。トラブルの原因になりかねないだけに、それを未然に防ぐ知恵やトラブルにまで発展してしまった場合の対応など、ノウハウが欠かせません。
商品設計にはそうしたノウハウまで組み込むことが求められます。それでこそデザインといえるのではないでしょうか。