海外の投資家は高値で買っても「為替」で採算が合う!?
外国為替レートの変動は、不動産価格に大きな影響を与えていると思います。不動産投資家が利益を考えるとき、基本的には、毎期の利益と売却時の値上がり益の2つを考えます。しかし、これは、国内の投資家の場合です。
海外の投資家は、これに為替差益が加わります。円・ドルの為替レートは、2012年夏の78円から、2015年5月には124円と約55%円安になりました。海外の投資家が、円安によりドル換算で安くなったから購入しやすくなったというコメントを聞いた人は多いと思います。日本が投資先として安心だという面もありますが、もし、円安が行き過ぎたとして、たとえば、1ドル110円の円・ドル為替レートが5年後に1ドル100円になると、10%の為替差益を得ることになります。
5年間で10%の投資利益は、日本国内の投資家より高い値段で買っても、為替で儲けていることから、採算に合うことになります。
[図表]
円高が進むとの予測なら、海外からの投資は急減?
わかりやすい数字を使って説明します。
賃料等の売上から諸々の支出を差し引いた現金が年間5000万円あるとします。日本国内の投資家は利回り5%で購入可能とすると、5000万円÷0.05=10億円です。
しかし、海外の投資家が、円安になりすぎと考え、為替が5年後に10%円高になると考えたとすると、日本の投資家の5%でなく、4.5%でも投資できるという判断になります。そうすると、5000万円÷0.045≒11億1000円。
海外の投資家がいることで、不動産価格は上昇します。一方、海外の投資家が、円高が進むと予測するなら、海外からの投資は急減するかもしれません。賃貸市況の回復への期待感とは別に、賃貸事業の環境が良くなったわけでなくても、価格は上がるのです。
不動産の価格は、このように、本来の賃貸事業の成果以外の面で、価格が大きく変動する状況にあります。
これは、市場価格ですので、やむをえないと思います。上場企業の株価と同じです。
しかし、企業にとって株主は大切ですが、企業が存続するためには売上が必要です。そして、当然のことですが、売上は、お客様が必要とするものを提供して初めて得ることができます。長期安定した売上・利益を得る前提は、お客様の支持です。
貸ビル業も同じです。お客様であるテナントに快適なビジネスの場を提供し続けてはじめて、長期に安定した賃料・利益が得られます。
~本連載のまとめ~
ビル経営を財務面から分析するとき、現金収支、損益、そして資産の状態と資金調達の視点が必要。それぞれ、C/F、P/L、B/Sがある。
ビル経営は、事業である。したがって、まずは、いかに収益を高めるかを考える。そのうえで節税を考えるという順番。価格を考えるときも、売れる価格を高めることを考える。最初に節税対策で考えることは、間違った経営をしかねない。
売れる価格を高めるには、賃料収入を高めること。これは、良質なビジネスの場を継続的に提供し続けることが鍵となる。
事業計画がないと、羅針盤がない状態。企業でいえば、どこに向かっているのか、わからない状態になっている。シンプルなものでもよいから作ってみる。具体的な数字は、経営のリアル感が出る。
良質なビジネスの場を提供し続けるには、改修工事等の投資は不可欠。長く低金利が続いているが、今後も同じとは限らない。事業計画では、金利が上昇した場合の試算もしておくこと。各種数字の変動は、その変動が、どの程度ビル経営に影響するかを確認する。
不動産の価格は、その時々の投資家の判断。事業としての貸ビル業は、経営者としての判断。企業の株価と企業経営の違いと似ている。
不動産の価格は大きく変動するが、金融や外国為替相場といった、本来の賃貸事業の成果以外の面の影響は大きい。