今回は、貸ビル業に必要な「商品価値を高める」という意識について見ていきます。※本連載は、不動産経営コンサルタント・三つ星オフィスビルプロデューサー・不動産鑑定士として活躍する、釜口浩一氏の著書『これからのビル経営 利益を生み続けるための基本がここにある』(キョーハンブックス)の中から一部を抜粋し、ビル経営において長期安定した収益を確保するための財務視点をご紹介します。

貸ビルは「価格変動」が大きく「賃料変動」が小さい⁉

前回の続きです。

 

価格は、このように大きく上下動しますが、賃料はここまで大きく変化することは少ないです。新規募集時の賃料水準は、大規模なオフィスビルほど大きく動きます。日本で一番オフィス賃料が高い東京駅周辺の丸の内では、月坪10万円になったことがあるようです(賃貸借契約書で賃料を見たわけではありませんが、賃貸市場関係者の認識です)。ところが、安くなったときには、月坪4万円程度です。なんと、高値の40%。

 

しかし、大多数の中小のオフィスビルの新規の賃料水準は、ここまで大きくは変動していないでしょう。また、既に入居しているテナントの賃料改定は、現在の賃料が基礎となるため、変動幅が小さくなります。

 

このように、価格の変動は大きく、賃料の変動は価格と比べて小さくなります。

 

これをどのように考えれば良いか。

 

わたしは、一般の企業の株価と企業経営の違いに似ていると考えます。

 

株価は、株主である投資家の思惑で、大きく変動します。株価を決めるのは投資家です。一方、企業経営は、経営者が事業をどのようにするかを決めます。その結果として売り上げが上がります。

 

“価格は投資家の判断”

“貸ビル業は、経営者としての判断”

 

上場企業は、非上場企業よりも株主の方を向いていますが、基本は、自分の会社の事業、つまり商品やサービスをお客様に販売して初めて売上を得ます。投資家には、投資する企業の事業をよく研究し、株式を長期保有目的で購入する投資家もいれば、デイトレーダーとまではいかなくても、株価の動きによって短期的な利益を得たいという投資家もいます。

まずは「賃料を高くする」ことを目標に・・・

私が、貸ビルに携わっている方々に話すことがあります。

 

「私たち、日々、貸ビル業に携わっている人は、損益計算書をどう作り上げるかという視点が大切。投資家は、貸借対照表の世界、つまり、どのような資金調達をして、価格(総資産)が高いところで売るかという視点が大切。」

 

貸ビル業に携わっている人も、資産価値を高めるという目標はありますが、まずは、売上である賃料を高くすることを目標にしてはいかがでしょうか。

 

売上である賃料を高くするためには、商品であるオフィスビルが、お客様にとって価値が高いものでなければなりません。商品価値を高めつつ、原価を下げることが利益を高めることになります。一般の商品・サービスと同じです。異なるのは、建物という現物を、長い期間使ってもらうものであり、また、サービス業の要素も加わっていることです。

 

不動産投資を安易に考える人もいるかもしれませんが、貸ビル業、つまり、賃貸オフィスビル事業は、建物というハコが稼ぐのではありません。そこで快適にビジネスができる場を提供して初めて、対価である賃料をいただけるのです。売上である賃料は、そのようにして得られると認識してほしいと思います。

これからのビル経営 利益を生み続けるための基本がここにある

これからのビル経営 利益を生み続けるための基本がここにある

釜口 浩一

キョーハンブックス

賃貸アパート・マンションへ“投資"指南書は数多くありますが、本書は、賃貸オフィスビル(貸ビル)を対象としており、しかも、“経営の指南書"です。 ビル経営は、様々な専門性が必要とされます。建築、設備、賃貸借契約、ビ…

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録