変形地の活用はコストも時間もかかるが・・・
自ら所有する土地や建物を活用しようと思い立っても、様々な規制があったり条件が付いていたりして、現実にはなかなか思うようにいきません。そうした扱いに悩む土地や建物というのは恐らく、活用しにくいし、したがって売ろうにも買い手が付かないような不動産に違いありません。
代々受け継がれてきた不動産であれば、扱いやすいものは既に活用されたり売却されたりしているでしょう。扱いやすい場所から手を付けてきたので、結果的に残った不動産は扱いにくいものばかりになってしまったという例もあるかもしれません。
しかしだからといって、がっかりする必要はありません。本連載で一番伝えたいのは、そういう不動産でも価値を引き出すことはできる、という点です。あきらめる必要はないのです。むしろ一見すると利用価値のなさそうな不動産こそ、建築設計者の提案力によってうまく価値を引き出せれば、大きな収益を生んでくれる存在に変化する可能性さえあります。
扱いにくい不動産としては、斜面地がその典型として挙げられます。斜面を削ったり土を盛ったりして平坦な部分をつくるには、莫大な造成費用が掛かる上に、区画形質の変更に当たるとみなされれば、開発行為として開発許可の手続きに入る必要が生じます。コストも時間も掛かってしまうわけです。
建築にとっては道路付けが重要ですから、道路から奥まった旗ざお状の敷地や幹線道路に面しているものの道路に接している部分がわずかしかない土地も、扱いにくい土地と考えられます。これは変形地の一つです。
三角形の土地や極端に細長い土地も、変形地の一つといえます。これは道路付けが悪いというよりは、土地の形として純粋に使いにくいということです。全体の面積があるならともかく、全体としても狭いとなると、使い道に困るでしょう。
条件によっては手に負えないものもあるかもしれません。しかし、条件の悪い土地でも、近隣相場とそう変わらない賃料の取れる活用法はきっと見つかるはずです。
使えない土地を「活用」するからこそ恩恵が得られる
具体例を一つ紹介しましょう。横浜市金沢区の変形地・斜面地の例です。場所は京浜急行電鉄六浦駅からその南に広がる戸建て団地に至る道路沿いです。
低地に位置する駅から丘陵地を造成した団地に至る道が、丘陵地を登りながらくの字型に折れ曲がった箇所に、その土地はあります。くの字型のヘアピンカーブに抱かれた土地は極端に細長い形状です。折り返す道路と道路に挟まれた土地の幅は5m強。これに対して長さは80m近くあります。くの字型に抱かれるように三方を道路に囲まれています。しかも、登り坂の途中ですから、土地の高低差は最大15mにも達します。
周辺一帯を戸建て団地として造成した残りの土地です。結果として、このような形状になってしまったのでしょう。普通に考えれば、公園や緑地などのスペースとして利用するのがセオリーかもしれません。
ところが、目利きがいました。Tさんはこの土地をわざわざ購入し、ファミリータイプの共同住宅を建設しようと考えたのです。用途地域は周辺の戸建て団地と同じく、第1種低層住居専用地域と呼ばれる戸建て住宅用の用途地域ですから、住環境は良好です。それでありながら、最寄りの六浦駅まで徒歩5、6分と至近距離です。賃貸住宅の立地としては申し分のない条件でした。
一見すると、共同住宅が建つようには思えない敷地を活用するからこそ、価値が上がるのです。
幅5m×長さ80mという、めったにない敷地だけに、丁寧に計画を進めていく必要があり手間は掛かりますが、こうした尋常でない敷地条件ほど建築設計者にとっては腕の見せ所です。地上3階建てで総戸数15戸のファミリータイプの共同住宅を建設しました。
もちろん、特殊な条件の土地ですから、平坦な敷地と同じようにはいきません。斜面地を一部は削って、そこに建物を建てます。採光・通風を確保したうえで構造上安全な建物にする必要がありますから、土木的な見方も求められます。
行政との折衝も欠かせません。通常、開発事業で土を50㎝以上掘ったり盛ったりすると、都市計画法上の開発行為とみなされます。すると、様々な手続きが必要になって、時間と手間が掛かります。ここでは「土を掘るのは建築のため。わざわざ土地を造成して宅地をつくらない。したがって開発行為ではない」と、行政を説得し、開発行為とはみなされずに済みました。
土地の条件からすると比較的安く購入できたと思います。その土地を15戸規模の賃貸住宅に生まれ変わらせることができたわけですから、Tさんは価値アップの大きな恩恵を享受できたに違いありません。