収益性を高める「レンタブル比」の引き上げ
条件の悪い土地を生まれ変わらせることは十分可能ですが、いくつかのセオリーがあります。これまで手掛けてきた実績をもとに、条件を逆手に取って土地を生まれ変わらせるポイントがどこにあるのかを見ていきましょう。
前提として、収益性にこだわるという姿勢は欠かせません。いくら構造物をつくっても、それが収益を生み出さなければ、事業は成り立ちません。それはレンタブル比0%の構造物ということになってしまいます。
例えば賃貸住宅を建てても、床面積のすべてを貸し出せるわけではありません。エントランスもあれば、階段やエレベーターのような上下に移動するためのスペースがあります。各階には廊下もあるでしょう。これらはすべて、貸し出せないスペースです。
ところが、これらのスペースをつくるのにも当然、コストは掛かっています。コストは掛かっていながら、それを回収できないスペースなのです。これに対して、これら共用部を除いた各住戸の面積は賃貸面積としてカウントできるスペースです。つくるのにコストは掛かっていますが、それを回収できるスペースです。
こうしたスペースの性格から、賃貸面積をできるだけ多く確保し、レンタブル比を引き上げることが、収益性を上げる一つのポイントになります。要するに、収益を生まないスペースはできるだけ省く。できればつくらないようにするということです。
もう一つ重要なのは、その収益性は場所によって異なるという点です。どの場所が高く貸せるかという点は用途によって異なるので一概には言えませんが、例えば店舗を例に取ると、地続きの1階が賃料は最も高いと考えていいでしょう。
地上12階建ての共同住宅・店舗併設の建物で駐輪場の確保が問題になったことがあります。この建物では1階店舗の賃料は坪単価で月3万円。2階に上がると、同じ店舗でも坪単価で2万5000円にまで下がります。3階まで上がると坪単価は1万5000円になってしまいます。その1階店舗部分を泣く泣く駐輪場に充てることを検討しようと建築主のOさんが言うのです。
しかし、1階店舗は貴重な収益源です。かたや駐輪場は収益をほとんど生み出しません。できれば、1階店舗はなるべく広く確保したい。ただ、そうすると、駐輪場をどこに確保するかという問題が浮上します。
最終的には、地下に駐輪場を確保し、地上階との間を結ぶ専用エレベーターを設置することにしました。エレベーターの設置コストなど費用は掛かりますが、1階に店舗を確保できるという経済メリットは享受できます。トータルで考えれば、1階の店舗スペースを駐輪場に充てるより収益性は大きいという結論に達しました。また別のケースでは、地下につくるのをやめて、3階部分や屋上に駐輪場を設置したこともあります。
収益を生まないスペースはできるだけつくらないようにする一方で、収益を生む場所にある床にはできるだけたくさん生み出させる――。これこそ、土地活用の一つのセオリーです。
変形地を所有している場合は「土地の管理」に注意
この考え方を斜面地に適用すると、そこをただ擁壁で土を覆うのではなく、賃貸住宅のような収益性の見込める構造物で傾斜地を覆うという発想が生まれます。
斜面地を所有している場合、その管理責任には注意を払う必要があります。例えば土砂崩れが起きて斜面地下に被害をもたらしたような場合、管理責任を負う土地所有者がそれを予見できたと認定されれば、損害賠償責任を問われる恐れがあるからです。
したがって、斜面地を所有していて、万が一それが崩落したときにその下に被害を受けそうなものがある場合には要注意です。あるいは既に、被害を受けそうな側から何らかの要請を受けているかもしれません。
問題はそのような場合です。要請を受け入れて、斜面が崩落しないように擁壁で覆おうとするかもしれません。確かに、万が一のことを考えると、ここで擁壁築造代を支払ってでもあらかじめ安全を確保したほうが、賢明かもしれません。損害賠償請求訴訟の対象にされてしまってはたまりません。
しかし、擁壁築造代はそれだけであれば回収しようがありません。擁壁を築造したことで斜面下の安全性が高まったとはいえ、それは誰も評価してくれません。万が一の場合が生じても安全だったというのは、半ば当然のことと見られてしまうからです。
そこで、この擁壁を単なる構造物ではなく、人の暮らす共同住宅で構成できないかと考えます。同じ構造物として斜面を覆う造りである以上、それが共同住宅だとしても、擁壁と同じ役割は果たせるはずです。斜面の崩落によってその下に何らかの被害を及ぼすことはまず考えられません。
もちろん、構造物としては規模がはるかに大きくなりますから、工事費用はかさみます。ただ一方で、賃貸部分を持つわけですから、そこを貸し出すことで一定の収益を得ることができます。支出は大きくなるものの、それをカバーする収入が発生するのです。それらがうまくバランスを取れる、十分検討に値するはずです。