容積率は「すべて使える」とは限らない・・・
前回ご紹介したケースの後、隣地での賃貸マンション2期計画にも参画させてもらうことになりました。隣地は人に貸していた土地で、木造アパート1階部分に店舗などが軒を並べていました。
Kさんは1期計画が完成した1995年以降、隣地の権利関係の整理に乗り出し、2002年にようやく賃貸していた店舗と話をつけることに成功し、本来の所有権を取り戻すに至りました。ここに、1期と同じ賃貸マンションを計画したのです。1期は学生専用でしたので、2期は少し広めにして学生に限らない賃貸マンションの企画にしました。
容積率の確保という点では、共同住宅の建設にとって有利な規制緩和が実施されました。共同住宅の共用階段や共用廊下は、容積率計算上の床面積から除外されるようになったのです。この緩和によって恩恵を受けるのは、それまで床面積に含まれていた建物内の階段や廊下に限られますが、共同住宅の建設には追い風の要因といえるものです。
2期計画での課題は、環状7号線に面していた1期計画と違って、前面道路の幅員が8mと狭いことです。
敷地で利用できる容積率は都市計画の中で定められていますが、それをそのままフルに使い切れるとは限りません。どこまで消化することができるかということが、前面道路の幅員によって制限されているからです。
商業系の用途地域の場合には、前面道路の幅員に0.6を乗じた割合まで、住居系の用途地域の場合には、同じく0.4を乗じた割合までしか利用できません。
例えば、用途地域は商業地域で、指定容積率600%の敷地を考えてみましょう。この敷地は幹線道路に面していれば、指定容積率600%をまるまる使い切ることができます。しかし、前面道路の幅員が8mであれば、それに0.6を乗じた割合、容積率に換算すれば480%までしか消化することができないのです。
2期計画の敷地は商業系の用途地域が定められていたので、利用できる容積率はこの例と同じく480%です。共同住宅の建設に有利な規制緩和があったとはいえ、容積率480%では確保できる床面積が限られてしまいます。
敷地を一体とすれば「容積率制限」を受けずに済む
ところが結論から言えば、2期計画でも1期計画と同等の容積率を利用し、最大限の床面積を確保することができたのです。秘密は、1期計画の増築計画という扱いにした点にあります。2期計画を単独のものとしてではなく、隣地に完成している1期計画の増築という扱いにしたことで、1期計画と同等の容積率を利用できるようになったのです。
なぜそうなるのかをご理解いただくには、まず建築基準法の原則を知っていただく必要があります。それは、「1敷地1建物」というものです。一つの敷地には一つの建物しか建てられないという原則です。
ただし、この原則には例外があります。それは、用途上不可分の建物であれば、「1敷地1建物」に限らないのです。例えば学校のように、広大な敷地にいくつもの校舎が建っている施設を思い浮かべてもらえればいいでしょう。学校は例外の一つです。
2期計画は賃貸マンションですから、用途上不可分、つまり用途上切り離すことができません。賃貸マンションとして一体で運営するからです。したがって、2期計画と1期計画の敷地を一体と考え、その敷地上に後から2期計画の建物を増築する、という考え方が認められるのです。
敷地を一体と考えられれば、前面道路はあくまで環状7号線。先ほどご説明したような、前面道路幅員による容積率制限は受けずに済みます。
土地活用に対するKさんの思いを受け止め、それを実現できるような建物を、建築設計者としての知恵を生かしながら提案する、その提案力が認められたのでしょう。その後も、Kさんからは土地活用への参画を、建築設計者として求められています。