どんな施設をつくりたいか、頭取を前に熱弁
会う約束を取り付け、二人で頭取の元へうかがい、挨拶もそこそこに頭取の前で人工透析とは何か、どんな透析施設をつくりたいのか、どんな理念を持っているのかなどという話をひたすら続けました。かなりまくし立てて話したと記憶しています。頭取に理解していただけたのかどうかなどわかりませんでした。
しかし私の熱弁を信頼してくれたのでしょうか。これにより、京葉銀行から融資を受けることができるようになりました。以来、すべてにおいて融資は京葉銀行にお付き合いいただいています。
細部に至るまで何度も繰り返した建築士との打ち合せ
もう一人は一級建築士の水野英嗣氏です。
個人の一戸建て住宅ならば、ノウハウを持った建設会社や工務店は多々ありますから、建築することは簡単です。しかしこれから建てるのは人工透析施設です。私たちの目的は多くの患者さんたちに来てもらい、安心して使っていただける便利なクリニックを建てることです。
ここでうっかりしていたことがありました。思えば、まさかというようなことです。私たちは多くの経験を重ね、確かな人工透析技術を持っていると自負していますが、「人工透析室」のことなど気にしたことがなかったのです。
大学に入ってはそこにあった設備を使い、国内の他の病院に行っても留学しても、何の疑問も抱かず、すでにある設備をそのまま利用していました。では、人工透析のベッドの高さはどれぐらいがいいのだろう。治療する部屋の間取りや縦横の長さ、ベッドを移動したりするのに必要な扉の幅、廊下の幅、エレベーターの大きさは? 一番身近にあり、ずっと使ってきたにもかかわらず、これまで部屋のサイズ感など一切気にしたことがありませんでした。漠然としたイメージはあっても、どれぐらいが最適なのか具体的な数字がまったく浮かびません。それに加え、患者さんやスタッフが使いやすく、最も効率的な動線を踏まえた間取りについても考えたことはなかったのです。
建築士の水野氏も透析クリニックの建設に関わったことがなく、その方面については明るくはありませんでした。そこで、当時勤務していた病院で、診療後や休日を使って水野氏を招き入れ、実際にメジャーで幅や高さを計測するという作業をすることになったのです。部屋の広さ、ベッドのサイズや高さ、ドアの幅や開ける向き、作業に向いている動線の確認、患者さんたちの移動の仕方など、測ったり調べたりを徹底的に行いました。これが思った以上に手間がかかったのですが、こうした数値をもとに、水野氏がいろいろとアイデアを出してくれました。
「こっちが国道に面しているから、入り口をこちら側にしたほうがいい」
「いや、それよりもこちら側から入ったほうが、帰るときに都合がいいよ」
などと、立地条件や方角、施設内の各部屋への通路なども含めて、細部に至るまで、何度も何度も注文を繰り返しました。毎週日曜日、千葉市の某ファミリーレストランで、ほぼ朝から晩までコーヒーのおかわりをしながら、彼はずっと付き合ってくれました。そのうち灰皿も替えてくれなくなったぐらいですから、かなり嫌な客だったと思います。何より、当時水野氏は厚木方面に自宅があったので、そこから千葉まで毎週通う労苦は大変なことだったと思います。