今回は、エンダウメントを参考に、個人がポートフォリオを構築する方法を考えてみます。※本連載では、株式会社GCIアセット・マネジメント、投資信託事業グループの執行役員である太田創氏が、「米国名門大学のエンダウメント投資戦略」とは何かを、初心者にもわかりやすく説明します。

「ベータ部分」はETF(上場投信)が使えるが・・・

ここまで見てきたように、米国大学エンダウメントのポートフォリオは、意外とシンプルであることが分かります。もちろん、オルタナティブ投資部分の中身は完全に開示されていませんから、個人投資家がその部分を真似て運用することは困難です。

 

ただし、現在では有価証券取引がオンライン化・グローバル化されていますから、エンダウメントに似たようなポートフォリオは個人投資家でも構築することが出来そうです。今回はその構築方法を考えてみました。

 

 

エンダウメントはポートフォリオの内、3割程度をパッシブ運用で対応しベータを取りに行きます。ベータとは超過収益のない投資対象資産の市場平均値と言い換えてもいいでしょう。例えば、日本株ならTOPIX(東証株価指数)や日経平均株価に連動するインデックス投信やETFになります。残り7割はオルタナティブ投資になります。

 

さて、3割をインデックス投信やETFで運用すると言っても、当初の問題はこの3割をどのような割合にするかというところです。株式なのか債券なのか、はたまた外国株式(債券)か日本株(債券)か。外国と言っても地域はどこに割り当てるか・・・。実はETFをオンライン証券で買えるといっても、その前に資産の配分割合を決めないとポートフォリオは組めません。これが第一のハードルです。

 

仮に資産配分が決めたとして、厄介なのは実際に買い付けに行くタイミングの問題です。日本株と日本債券だけなら時差の問題はありませんが、外国株式や外国債券を取引するには、いかにオンラインといえども、日本時間では夜中になります。指値で置いておくということもできるでしょうが、マーケットは急変しますから、リアルタイムで海外の動きを追いたいところではあります。これが第二のハードルです。

 

第三のハードルはリバランスです。株式と債券の値動きは異なりますし、現在のように株価上昇局面では、どうしても株式部分の時価評価額が大きくなってきます。そのまま放っておくと株式部分の割合が増えてきますので、結果としてポートフォリオのリスク値が上昇します。

 

これを避けるために、必要な資産を売買して当初の割合に戻すことをリバランスと言いますが、こうした手続きは小口であればなおさら煩雑です。しかも時差がある中で対応しなければなりません。

 

ことほどさように、ベータ部分はETFで対応できるといいますが、実際に個別取引をするのはかなり面倒なことなのです。

「オルタナティブ投資部分」の対応はほぼ不可能

ベータ部分は何とかなったとして、どうしようもできないのがオルタナティブ投資部分です。オルタナティブ投資は運用対象が幅広く、個人投資家に門戸は開かれていませんので、どこにアクセスしていいか分からないし、どういった資産がどのくらいのリターンを上げているかなど、詳細な情報が得られにくいのが実情です。

 

 

加えて、オルタナティブ投資はそのほとんどがオフショア市場で登録・設定されていますから、時差に加え言語面でもハンディキャップが生じています。結局、個人でオルタナティブ資産に直接投資するのはかなり困難なのです(ただし、日本国内で現物の不動産投資を行ったり、J-REITを購入したりするのは可能です。ただし、前者は資金がそれなりに必要であり、後者は小口で運用で運用できますが、銘柄選びや分散をどうするかが問題です)。

 

[図表]オルタナティブ投資の投資対象資産

各種データベース等からGCIアセット・マネジメント作成
各種データベース等からGCIアセット・マネジメント作成

 

見落とされがちな「為替リスク」

日本の個人投資家に見落とされがちなのが為替リスクです。外貨建て資産に運用して円安になれば為替差益が得られるといった、安易な投資行動が見られますが、為替の動きはプロでもわかりません。予想困難かどうかよりも、むしろ日本人が日本で生活している限り外貨は不要で、とりわけ長期投資で将来に運用成果を円で受け取りたい方は、やはり円ベースでの運用を心掛けるべきと思います。

 

前述のベータ部分でもオルタナティブ投資部分でも、円ベースで固めるにはポートフォリオの円ヘッジが必要ですが、個人のポートフォリオを円ヘッジすることは、現実的にはほぼ不可能です。

 

では、どうすればエンダウメントのような長期的な運用スパンで、円ベースで安定したリターンを上げられるのでしょうか。

 

これについては、次回のコラムでお話しいたします。

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