今回は、ハーバード大学、イェール大学、テキサス州立大学基金の投資対象銘柄を見ていきます。※本連載では、株式会社GCIアセット・マネジメント、投資信託事業グループの執行役員である太田創氏が、「米国名門大学のエンダウメント投資戦略」とは何かを、初心者にもわかりやすく説明します。

保有上場有価証券の開示義務がある米国エンダウメント

米国エンダウメントが長期運用を基本とし、伝統的資産とオルタナティブ資産に分散投資することはこれまでも見てきたとおりです。では、具体的にはどのような投資対象銘柄を選択しているのか、今回のコラムで見ていきたいと思います。

 

エンダウメントを含み、米国では1億ドル(約112億円)超の運用資産を保有する機関投資家は、四半期ごとにSEC(米国証券取引委員会)に13Fと呼ばれる上場有価証券(含む、金融先物等の買い持ち残高(ロングポジション))の保有明細を提出しなければなりません。

 

 

このレポートは四半期末から45日以内に提出が義務付けられていますので、このタイミングではSECのホームページ上で、2017年9月末ベースの残高を知ることが出来ます。残念ながら、この報告書には有価証券の売り持ち(ショート)ポジションや、非上場のオルタナティブ資産は開示されていませんが、各エンダウメントの伝統的資産における投資行動をある程度推察できると思います。

各エンダウメントの「上場有価証券の運用戦略」とは?

このレポートを元に、全米3大エンダウメントの上場有価証券の取引動向を観察してみましょう。下記の図表は、2017年9月末現在の保有残高のトップ5銘柄です。

 

[図表]三大エンダウメントの米国内上場有価証券保有一覧


注:SEC、whalewisdom.comのホームページより、GCIアセット・マネジメント作成
注:SEC、whalewisdom.comのホームページより、GCIアセット・マネジメント作成

 

ざっと俯瞰すると、 ハーバード大学は伝統的資産(株式、債券)のほとんどをETF(上場投資信託で)運用しています。ETFの中では、ハイ・イールド債券ETFを上場有価証券投資の8割以上保有しており、同ETFの5%弱を保有する第五位の株主にもなっています。ハイ・イールド債に集中投資して高いインカム収入を享受する狙いがあるのでしょう。個別銘柄ではAduro BiotechというNASDAQ上場のバイオテクノロジー企業株式を保有しており、この企業の第三位の株主にもなっています。

 

 

一方、イェール大学は個別銘柄重視の戦略を採っています。JBG Smith社の上場リートを40%程度組み入れていますが、同エンダウメントは同社の第四位の株主です。同社は居住用物件、オフィス、小売り店舗などを開発・管理する多角リートでもあり、上場リートを通じた不動産投資を重視していると考えられます。加えて、天然資源開発企業にも注目しています。ETFよりも個別銘柄重視の戦略といってもいいでしょう。

 

テキサス州立大学は、それほど米国内の上場株に運用しているわけではありませんが、地元の半導体メーカーや天然ガス開発企業に投資しています。おそらく地縁や土地勘のある企業に投資しているのではないかと推察されます。それ以外は広くETFで世界の株式市場をカバーする戦略です。

 

このように各々の大学で上場有価証券の運用戦略は異なりますが、市場を幅広くカバーする際はETFで運用し、個別株ではより選別して高い超過収益を上げようという意図が見えてきます。伝統的資産に加えオルタナティブ投資を積極的に組み入れるこうした投資行動は、個人投資家にも大いに参考になるとともに、現在では個人ベースでも実践可能な投資手法となっているのです。

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