同一の建物・設備を長く運用する「LCC」発想が定着
前回の続きです。
3.長寿命
病院を建てては壊す時代は終わりを告げ、最近では同一の建物で長く運用していくLCC(Life Cycle Cost)発想が定着しつつあります。
建物や設備が長く使えれば、コスト面だけでなく環境面でもCO2排出量削減や省資源につながり、大量の産業廃棄物を生み出すことも抑制できます。その結果、建築材料や設備材料は耐久性・耐震性・耐火性に優れ、メンテナンスしやすいものが求められるようになりました。
ここでつい見落としがちな要素が、「ゆとりの確保」です。長く使うためには、敷地面積、延べ床面積、階高、床荷重などにある程度の「ゆとり」が必要です。「ゆとり」があってこそ、将来の増築や最先端設備の導入に対応でき、やむをえず改築する場合も小規模な工事ですむためです。
4.エコマテリアル
病院を建築するには多くの資材を必要としますが、ここでは環境負荷が低いエコロジカルな資材が使われているかをチェックします。再生資源の活用はもちろん、なるべくリサイクルできる素材や再生産できる素材を使うこと、建設中や解体時の廃棄物を少なくする工法を選択するなどの手法があります。
また、従来のコンクリート建築では型枠に熱帯材を多用するケースがほとんどでしたが、熱帯林の減少ペースを抑えるため、プラスチック製、ポリプロピレン製など、様々な代替型枠が開発されています。代替型枠は使用後にリユースやリサイクルすることも可能なため、廃棄物を減らす一助にもなります。
各種資材を「環境負荷が低い方法」で処分
5.適正使用・適正処理
いくら環境にやさしい資材を選んでも、適正に使用し、適正に処分しなければ、十分な環境対策効果を発揮することができません。各種資材を的確に使用し、極力環境負荷が低い方法で処分することが必要です。
そのため、とくにゴミや建築副産物の削減・再資源化についてチェックします。一例をあげると、ゴミを減らす分別収集やゴミ処理方法の提案・実行、オゾン層を破壊するフロンガスを極力使わない施工方法や徹底したフロン回収方法の採否などです。
建設時や運用時に、ある程度の廃棄物や建築副産物が発生するのは避けようのないことです。しかし、適正量の資材を発注し、余分な廃棄物を排出していないか、リユースできる資材を確実にリユースしているか、リサイクルできる建築副産物を再資源化しているかなど、環境配慮の徹底を目指します。
久米設計の病院設計タスクチームが実施しているチェック事項の一部をご説明しましたが、このような地球環境対応メニューから病院が自院に必要な施策を選んだ結果、CASBEE(建築物総合環境性能評価システム)でSランクを取得したケースも誕生しています。
環境対策は、立地、気候、病院の規模、運営主体、経営者の考え方などが大きく影響する課題です。また、施策を実施するには、イニシャルコストの上乗せが必要です。
イニシャルコストが高くなるなかでどこまで社会貢献するかは経営者の判断によるところですが、最近では環境意識を高くもち、優れた環境対策を講じることで環境への取り組みを社会にアピールする病院も増えていますから、久米設計の病院設計タスクチームは絶えず実効性のある対策手法を追求しています。