病院と設計者が「病院概要」について共通の理解を持つ
前回の続きです。一般的な設計のプロセスが「基本設計」「実施設計」「監理」と進むことは本書の「はじめに」で述べた通りですが、病院設計タスクチームによる対話と資料提供は、その前段階から行われます。
まず、病院と医療コンサルタントが検討した構想に基づき、病院と設計者が病院概要について共通の理解をもてるようになるまで、徹底的にヒアリングを重ねます。
これからどんな病院をつくり上げていくのか、何が病院にとって理想なのか。病院の建設事業は数年にわたるのが通常ですから、その間、経営者も設計者も判断の根拠はこの段階でまとめた病院概要になりますし、また、迷うときはそれに立ち戻れば判断を誤りません。病院建設事業の成否を分けるものとして、病院設計タスクチームはこの段階でのヒアリングに注力します。
ときには「市民とのワークショップ」を開催する手も
ここで策定した病院概要に従って、次に、計画の基本となる各部門のゾーニングをまとめる基本計画案を作成するのですが、ときには、市民とのワークショップを開催し、地域の声、患者さんの声を収集します。建設事業について理解を求めながら、要望を十二分に聞き出します。
重要なのは、病院側を代表する者としてワークショップの場に臨む姿勢です。病院設計タスクチームの役割が患者さんの声を病院に伝えると同時に、病院の考え方を患者さん側に伝える、双方の橋渡し役にあるからにほかなりません。
そして、収集した意見は病院と吟味し、以降に始まる設計の条件に加えます。一般に、患者さんの要望を吸収したいと考える病院経営者は多いのですが、設計が始まってから声を聞いていては、ごく一部の意見を表面的に取り入れるだけに終わりがちです。収集した要望を着実に設計に反映させるには、初期の段階から対話や調査の機会をもち、内容によっては設計の条件とするのが重要であると、病院設計タスクチームは考えます。
こうした前段階を経て、各部門の各室配置など、計画の全容をまとめる「基本設計」が開始されます。病院設計タスクチームは、医師や看護師、コメディカルスタッフら、病院スタッフとのコミュニケーションを重ね、各部門計画とともに設備・構造計画についても提案を繰り返していきます。聞いた要望に対し、解決策を提案する、その繰り返しです。
重要なのは、病院は医療のプロフェッショナルではあっても、病院建築においてはそうでないことを病院設計タスクチームの全員がしっかりと認識することです。建築専門用語を羅列することなく、相手の理解を確認しながら提案をしなければ、いくら複数案をあげても病院は選択することができません。提案一つひとつについて、選択の結果どうなることが予想できるのかを資料や図面で丁寧に説明していくことが大切です。
しかし、実際に業務のなかで運用したとき、それがどのように機能するのか、言語と図面による提案だけではなかなかイメージできなくても無理はありません。そこで、病院設計タスクチームは、積極的にCGや簡易模型をつくります。その労を惜しまないのは、提案内容を目で見てわかる、触れてわかるようにすることで、納得のいく選択を図るのが目的です。
[写真]モデルルーム見学の様子
この話は次回に続きます。