設計完了までに費やすヒアリングは2000~4000時間
前回の続きです。
そして、設計の最終段階、工事のための詳細図面を作成する「実施設計」は、工事前に病院とコミュニケーションできる最後のチャンスですから、きめ細かな提案・確認のある対話はいっそう重要度を増します。
そのため、基本設計で行ったCGや簡易模型による提案をさらに進化させ、病室のモデルルームを設置して、実際に内部を見学しながら設計の妥当性を検討していただくこともあります。
確認していただきたい事項を整理したチェックリストを作成し、一つひとつを現場でチェックしていただくのです。見学後、あとでまとめて評価をうかがうと、印象によって左右されたり恣意的な評価になりがちですから、現場で逐次チェックをしていただくことは大変重要です。
また、モデルルームを使っての妥当性の検討は、新しい病室形態やスタッフステーションを計画する病院では、「実施設計」段階まで待たずに前の「基本設計」段階で実施し、あとの設計に反映するケースも増えています。
こうして、設計の前段階からきめ細かいコミュニケーションを重ねていく結果、一つの病院設計が完了するまでにはヒアリングだけでも費やす時間は延べ2000~4000時間にも上ります。
建築の設計、施工、維持管理まで活用できるBIM
しかし、中には設計・施工期間を短縮し、早く開業したい事情がある病院もあります。そうしたときに大きな効果を発揮するのがBIM(Building Information Modeling)という手法です。
BIMは、コンピュータ上に作成した建物の3次元モデルに、コストや組み立て工程、管理情報などの属性データを追加したプログラムソフトのことです。建材パーツには幅や奥行き、高さ、素材、そして組み立てに必要な時間なども盛り込むことができるため、建築の設計、施工、さらに維持管理に至るまでのあらゆる段階で活用できます。
病院設計における課題は、部屋の種類が多様で、しかも部屋によっては多岐にわたる機能を備えなければいけないことです。
たとえば、部屋の種類には、手術室、レントゲン室、リハビリ施設、病室、事務室、待合室、売店、厨房などがあり、必要な設備、広さ、数、位置関係などは部屋ごとに決まっています。パズルを思わせる部屋の配置は、これまで手作業でコントロールしてきましたが、いったん施工が始まると部屋の取り換えは困難になるため、とてもリスクの高い作業でした。
しかし、BIMを使って建物の3次元モデルを作成した場合、図面内の「A」に変更を加えると、「B」もデータに沿って自動的に移動したり変形したりするといった条件設定が可能になります。
とくに病院設計では、部屋の面積や廊下の寸法といったように、詳細な数値を出すことが求められます。BIMの場合、すべての部屋に必要となる数値を属性として与えておくと、たとえば壁などを動かしたときでも必要な床面積にそって、変動がリアルタイムで表示されます。そうなると、改めて面積を測定する手間を省くことができるので、作業効率が格段に向上します。
これまでの病院設計で積み上げたデータの集積をBIMの条件設定として活用しています。作業時間を大幅に短縮できるほか、3次元モデルで可視化しているため、病院側ともすぐに情報を共有できて意思決定も早まります。BIMを使うメリットはとても多く、今後はこの設計手法が主流になっていくのは間違いありません。
この話は次回に続きます。