図面のやり取り、対面会議をいつでも実施できるツール
前回の続きです。
BIMに加えて、「ICT(Information and Communication Technology)設計システム」(いわゆるテレビ会議設計打ち合わせ体制)も久米設計のコミュニケーションアイテムの一つです。久米設計ではKIDS(KUME Information Design System)と称する独自のICT会議システムを採用し、クライアントとの会議に活用しています。
病院設計のような規模の大きいプロジェクトでは、綿密な打ち合わせを数多く行う必要があります。ところが、病院側のスタッフは多忙なことが多く、せっかく会議を開いても議題があまり進展しないこともあります。
そこで、久米設計では、クライアントに対して「KIDSシステム」に必要な機材を無償で提供し、さらにネット環境の整備まで行っています。病院と設計室間での図面のやり取りや、対面会議をいつでも実施できる効率的なツールを用意しています。
病院側に緊急の要件が発生しても、テレビ会議ですぐに対応できる手軽さもあります。また、お互いの表情を見ながらコミュニケーションがとれるため、納得しているのか、そうでないのか、相互理解も深まります。
また、疑問点が残っていた場合は、翌日にもう一度話し合って細部を確認するといった使い方も可能です。多忙を極める双方のスタッフにとっては、使いやすくて便利なシステムです。
このような丁寧な打ち合わせを重ねていても、設計がほぼ終わりかけた段階で、根本的な設計変更の申し入れをされる場合があります。通常であれば設計期間を半年間以上延長することになります。
ただ、設計期間が延びれば工期に支障が生じ、経費がかさんで開院も遅れるという悪循環に陥ります。病院は、何十億円という損失を出す可能性もあります。フロントローディングで設計の早い段階で要望や意見を設計者にしっかりと伝え、手戻りのない設計にすることが重要です。
病院設計には「インテリアデザイン」も非常に重要
しかしながら近年、「医療の価格」ともいうべき診療報酬が引き下げられるなど、病院の経営は厳しさを増しています。
病院の建設は完成まで早くて2~5年を要する大プロジェクトで、この間にさまざまな条件の変更が生じます。設計もこうした変容に対応することが求められており、「いったん決定した設計は変更できません」と突っぱねるのは、時代に合わない対応といっても過言ではありません。
さて、ここまで、久米設計の病院設計タスクチームならではの設計プロセスを述べてきましたが、それにはもう一つ、大きな特長があります。内装に関する提案は、「インテリアデザイン」の専門家によって行われるのです。
室内のデザインの良し悪しは、単なる使い勝手だけでなく、そこで働くスタッフのモチベーションや患者さんの安心感、病院に対する信頼感にも影響を及ぼします。優れた療養環境は患者さんの不安感を和らげ、自然治癒力を高めるといわれますが、また同時に、インテリアデザインに配慮をすることによって、患者さん目線の病院であることをアピールできることにもなります。
病院に限らず多くの施設の設計では、依頼者の要望がなければ、室内のデザインは特別にインテリアデザイナーがかかわることなく、設計担当者が行うのが通常です。しかし、深刻な疾病を抱えた多くの人々が専門医の治療を望むように、設計においても専門家がいる領域では、その技術を活用すれば結果は明らかです。
久米設計の病院設計タスクチームが内部にインテリアデザイナーを有し、専門的な提案をしているのはこのためです。
この話は次回に続きます。