病院建築にも「地球温暖化問題への取り組み」が必須に
地球温暖化問題への取り組みは、いまや世界の共通認識になりました。同時に、近年では企業の社会的責任(CSR)が強く求められるようになり、事業活動における環境負荷の低減を掲げる企業が一般化しています。
2009年にニューヨークで開催された国連気候変動サミットで、わが国は2020年までにCO2排出量を1990年比で25%削減することを宣言。自治体や企業でも、CO2排出量の25%削減が現実的な課題として議論されるようになりました。
病院建築においても、様々な地球環境対策の手法が提案されていますが、どの手法をどの程度まで採用するかは、個々の病院の条件により異なります。久米設計の病院設計タスクチームでは、地球環境対策に特化したリストを作成、環境負荷軽減のための手法がどの程度実施されているのか、基本設計時・実施設計時・竣工時の各段階でチェックし、把握します。以下、そのチェック内容の一部をご紹介します。
1.周辺環境への配慮
満足のいく新しい病院を建てたとしても、それが地域の生活や自然環境に悪影響を及ぼすことがあっては許されません。病院設計タスクチームは、地域生態系の保全、都市気候緩和・地下水涵養、環境汚染防止の手法をとくに重点的にチェックしています。
近年、地球温暖化問題と同様に注目されているのが、生物多様性です。地球規模の生物多様性を下支えしているのが地域ごとの生態系であり、その保全すべき範囲は森林や海、川、湖沼にとどまらず、土壌のなかの微生物や空中に漂う微生物まで含まれています。病院を建設するとき、地域の自然環境を破壊していないか、広い意味で生物に悪影響を及ぼしていないか、チェックすることが重要です。
また、都市のアスファルト舗装や空調機器、自動車の排気熱などが原因で起きるヒートアイランド現象は、夏の酷暑や大気汚染を招き、局地的豪雨の一因ともいわれています。ヒートアイランド現象を抑制するには緑化が有効なため、病院の敷地内はもちろん、屋上や壁面にまで緑化を施すのが効果的です。
また、透水性舗装材を採用することで雨水を地中へ浸透させ、植生や地中生物を保護。同時に地下水の涵養や、許容量を超えた局地的な豪雨時に下水や河川の氾濫防止に役立ちます。さらに、周辺の河川の水質や大気、土壌の汚染は、当然のことながら避けなければなりません。
ほかにも、悪臭や騒音、工事時の振動、日射障害や電波障害、地盤沈下の防止などへの配慮が必要です。
省エネルギー運用により「ランニングコスト」を削減
2.運用段階の省エネルギー・省資源
運用段階の省エネルギーはCO2削減に直結する問題であり、病院のランニングコスト全体にも大きな影響を与えます。
その内容は、建物の冷暖房効率を上げるための断熱性の強化と、エネルギーの有効活用に大別できます。建物内の熱がもっとも失われやすい窓には、Low-E複層ガラス(板硝子の表面に特殊金属膜をコーティングした2重ガラス)などを採用し、冷暖房した内部の熱を逃がさないようにします。同時に空調や排気で失われる熱を最小限にとどめ、無駄を抑えます。
さらに、従来なら廃棄していた熱エネルギーを冷暖房や給湯に再利用するコジェネレーションシステムもここに含まれます。
省資源では、自然エネルギーを有効活用し、化石燃料をはじめとする地球資源の消費量削減を目指します。自然エネルギーの活用といっても、太陽光発電や風力発電のような高額な設備投資を伴うものだけではありません。
建物に天窓や高窓を設け、自然採光により照明コストを削減する設計、同じく吹き抜けアトリウムに採光・換気用の天窓を設置し、自動開閉して自然換気するシステムなど、様々な手法があります。
また、水資源についても、排水再利用システムや雨水利用システム、各設備に合致した節水システムなどを採用することで、大幅な節水が可能です。
この話は次回に続きます。