EUに支払う清算金は当初の「倍増し」の水準に
12月8日、英国のメイ首相と欧州連合(EU)のユンケル欧州委員長は、EU本部(ブリュッセル)で共同記者会見を行い、英国のEU離脱交渉に関し英国とEUの間で大きな進展があり、通商関係や移行期間に関する協議に必要な主要分野で基本合意に達したと発表した。
両者の共同発表文によれば、英国のEU離脱交渉について、
①清算金
②英国に居住するEU市民の権利
③アイルランドの国境問題(英国のEU離脱後は、英/EU間の境界となる)
上記の3分野で合意に達したとのことである。
まず、「清算金」については、推計で400億から450億ユーロを支払うことで合意した模様であり、当初の英国の主張からみれば倍増しの水準である。英国に居住するEU市民が関わる法的な紛争に関しても、離脱後8年間は欧州司法裁判所による裁きを受け入れるという経過措置で妥協した。アイルランドの国境問題でも、厳格な国境管理に移行するというよりは、当面、現状の状況をそのまま受け入れる構えである。
欧州委員会は交渉に「十分な進展」があったとして、次の段階の交渉に向けた作業にすぐに着手し、英国を除く27加盟国に、両者の将来の通商関係などで「第2段階」とも言える実務協議を開始するよう勧告した。
EU離脱後も英国がEUとの貿易を混乱なく継続するためには、離脱後の通商協定や移行措置に関して、早期に実務協議入りすることが重要である。時間がない中で、「第1段階」の交渉の大詰めでメイ首相が歩み寄った形だが、英国は今後の協議でも、さらに譲歩を余儀なくされる可能性がある。
メイ首相の交渉相手はEUだけでなく国内にも…
12月11日、メイ首相は「EU離脱交渉が先ずは前に進み始めた」と強調し、英議会とEUに対し、通商協議の開始に向けて手を携えて前進するよう訴えた。しかし、案の定、英下院はメイ政権主導の妥協に納得していないようだ。12月13日には、欧州連合離脱条件の最終決定に際し、英国議会の権限を強化する修正案を可決。同修正案は、EUとの最終合意を締結する前に、離脱条件を議会の採決にかけることを政権に義務付けるものである。これにより、メイ政権は、今後の交渉において、簡単には譲歩できなくなるだろう。
一方で、EU側のフラストレーションも垣間見える。英国では、EU離脱後まもなく通商に関する合意書に署名できるとの見方が一部にはある。英国は、EUがカナダと締結した自由貿易協定のような決着を望んでいるようだ。
しかし、EUのバルニエ首席交渉官は、自由貿易協定の交渉には時間がかかるとの見方を示し、英国のEU離脱時に間に合うのは、通商関係の条件をまとめた「政治的な宣言」にとどまるとの見解を表明した。とりあえず2年の移行期間が設けられたため、詳細の合意については時間を稼げるものの、離脱期限の2019年3月までに諸条件をすべて決めるのは不可能との見方がEU側には広がっている。
トゥスクEU大統領も、今回の基本合意を歓迎するとしながらも、英国は離脱後のEUとの新たな関係について、さらに明確にする必要があると指摘し、「第1段階」の交渉は長引きすぎたとの考えを示した。
筆者は引き続き、英国のEU離脱が円滑に実現するというのは相当な楽観論だと考えており、英国が支払うべき代償は想定よりも大きくなると見ておくべきと考えている。英国のEU離脱交渉は、まだまだ前途多難である。