景気刺激策によって「適温経済」が揺らぐ可能性…
昨年12月に、米国議会での審議が急展開し、税制改革法案が可決、トランプ大統領による署名も速やかに完了して、税制改革が成立した。直前の上院補選で共和党の地盤だったアラバマ州で敗北したことで、中間選挙を控えた議会共和党内の危機感が税制改正案を成立に動かしたという側面もあるだろう。結果としては、トランプ政権が掲げていた減税策は、税率の違いこそあるものの、ほとんどが実現したとも言える。
この税制改革の目玉は、以下の通りである。
●法人税を35%から21%へ引き下げる
●米国企業が海外で得た利益の大半について非課税とする
●米国企業が海外での利益を米国に戻す際に1回限りの課税が行われ、税率は現金・流動資産で15.5%、固定資産で8.0%とする
また、2025年までの時限措置ではあるが、個人所得税率も引き下げられ、基礎控除引き上げや子供の税優遇措置拡大なども盛り込まれた。この新税制は2018年から適用される。
トランプ政権と共和党は、税制改革法案は景気をさらに押し上げ、企業がより多くの雇用を生み出すことになると主張している。一方で、労働市場は、求人募集件数でも過去最高水準に近い状態で、米連邦準備理事会(FRB)をして「完全雇用状態に近い」という状態が続いている。景気の状態が良く、労働市場の引き締まりが継続する中、上述の通り財政政策が景気刺激策として発動されることになる。
そうすると、求職者の不足から、賃金上昇の懸念も出てくる。一部では、2018年の平均賃金の伸びは、3%を超えてくるとの見方も出ている。これは、緩やかな成長と低インフレによる物価の安定という適温経済(ゴルディロックシナリオ)の継続という株価を支えてきた前提が揺らぐことを意味し、警戒感が強まる可能性も頭に入れておくべきだろう。
景気のピークアウトはいつ? 積極的な財政出動に不安も
米国企業の中には、米国の税制改革の成立を受けて、一時金の支給や追加投資策の実施を表明するところも出てきている。税制改革が米国経済の成長率をどれくらい押し上げていくことになるか、市場は今のところ控えめな評価が多いが、心理的な効果も加味すると、こうした見方にもブレが生じるかもしれない。
一方で、米国の景気回復はいよいよ成熟期に入り、景気のピークアウトを引き起こすというシナリオも出てきている。この段階での積極的な財政出動が、次の景気後退期に、追加的な財政出動を制限することになるという見方もある。
1月のトランプ大統領による一般教書演説の内容に、インフラ投資計画が加わるとの観測もある。2月には、FRBパウエル新議長が就任する。そして、3月20日、21日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、利上げが実施される可能性が高いと見て、市場はそれを織り込んでいる。2018年第1四半期は、税制改革が景気に及ぼす影響を見極め、市場がそれをどう消化していくかに注目していきたい。
次回は、2018年の米国金融政策についてを解説する。