エリートサラリーマン・須藤を通して「不動産投資」について学ぶ本連載。今回は、難病を患う母に「投資用マンションの購入」を報告する須藤を見ていきます。

「ただいま、具合はどう?」

「ただいま」

 

東京駅から電車に乗って50分、東京都の隣の県の、郊外の小さな一軒家がオレの家だ。正確に言えば、家の名義はオレのものではなくて、離婚して家を出て行った父親のものだ。オレは、その家に、75歳を越えた母と二人で住んでいる。

 

両親が離婚したのは、オレが小学生のときだった。以来、母は女手ひとつで、オレを育てて、大学まで卒業させてくれた。だからというわけではないが、オレは有名大学や有名企業に入ることにこだわった。少しでも、母を安心させたかったからだ。

 

「かあさん、どこにいる?」

 

返事がなかったので、オレは部屋の明かりをつけながら、母を探して回った。案の定、母は寝室で横になっていた。

 

「ただいま、具合はどう?」

 

母はオレの顔を見て、ゆっくりと頷いた。いつものように、無表情だ。

「返済が終わったら、家賃収入が入るだけになるから」

母の様子がおかしくなったのは、数年前のことだ。最初は手足の震えから始まって、そのうちに身体がこわばって動かなくなってきた。

 

パーキンソン病という診断だった。映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で主演したマイケル・J・フォックスや、ボクシングの元世界チャンプのモハメド・アリもかかった病気だ。成功した華やかな有名人が同じ病気だったと知らされると、少しはなぐさめになる。けれど、決して楽な病気ではない。

 

身体が思うように動かなくなった母は、めっきりと外出しなくなった。顔の筋肉も固くなってきて、喜怒哀楽の表現が少なくなった。以前に比べると、いつでもむっつりと無表情に見える。口を動かすのも大変なのか、無口にもなった。抑うつ症状もあるようだ。

 

病気の原因は分からない。ただ、脳の神経細胞が少なくなって、情報伝達がうまくいかなくなる病気だと聞いている。病気が完全に治る治療法は、今のところない。薬を飲んで、症状の進行を遅らせるのがせいいっぱいだ。

 

パーキンソン病は、難病指定された特定疾患だから、介護保険である程度のサポートが受けられる。今は、オレが仕事に行っている間、短時間だけど、毎日、ヘルパーさんに来てもらっている。ヘルパーさんが置いていった報告書を読んで、母とその日一日のことを話しながら夕食を食べるのが、オレの日課だ。

 

「かあさん、今日はいい話を聞いたんだ。東京のマンションが、銀行からのローンで買えるんだってさ。ローンの返済は、マンションを人に貸した家賃収入でまかなうから、ほとんど支払いがなくても、マンションの一室が自分のものになるんだって。返済が終わったら、家賃収入が入るだけになるから、そうしたら年金と合わせて、オレの老後も安心だね」

 

オレはわざとらしく、笑ってみせた。

本連載は、2017年11月2日刊行の書籍『40歳独身のエリートサラリーマンが「不動産投資」のカモにされて大損した件』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

40歳独身のエリートサラリーマンが「不動産投資」のカモにされて大損した件

40歳独身のエリートサラリーマンが「不動産投資」のカモにされて大損した件

杉田 卓哉

幻冬舎メディアコンサルティング

大手上場企業に勤めるサラリーマン、須藤。40歳独身。将来への不安から、副収入を求めて「新築区分マンション投資」に手を出すが・・・。可愛い声の女性担当者がテレアポでおびき寄せ、イカつい営業マンが強引にクロージング!…

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