エリートサラリーマン・須藤を通して「不動産投資」について学ぶ本連載。今回は、営業課長・九門に迫られるマンション購入の契約について見ていきます。

「契約してくれるまで、ここを動きませんよ」

前回の続きです。

 

「それもありますね! いやいや、さすがのご慧眼です。ますます須藤様に買っていただきたくなりました。いかがですか。あとからキャンセルすることもできますし、ひとまず申し込みをしておくほうが安心だと思います」

 

オレは迷った。確かにクーリングオフ制度があるから、ここで契約書にサインしたからといって、必ずしも買わなきゃいけないわけじゃない。ほかの人が買ってしまってから後悔するくらいなら、今ここで申し込んだほうがいいかもしれない。視線を感じて、オレは横に座る橘高を見た。目が合った橘高は、ほほえんで冗談っぽく言った。

 

「契約してくれるまで、ここを動きませんよ」

 

確かに、前方をテーブル、右側を壁、背後を背もたれにさえぎられたファミレスのボックス席では、左側に陣取る橘高がどいてくれなければ、トイレにすら行くことができない。こんな人目のあるところで監禁もないだろうから、冗談は冗談なのだろうが、橘高の顔はどことなく本気っぽかった。それに、ちょっと気になったことがある。

「マンションというのは、1室だけなんですか?」

オレは座り直して、九門に聞き直した。

 

「マンションというのは、1室だけなんですか? 1棟全部が自分のものになると思っていました」

 

「東京で、鉄筋コンクリートのマンションを1棟となると、やはり何十億円といった価格になってしまうんです。天下のジャパソニックの社員さんといっても、そこまでは銀行が貸してくれないんですよ。

 

だから、1室ずつの分割販売になるのですが、逆に言えば、何十億円もするデザイナーズ・マンションの1室が、頭金がなくても手に入るのですから、いい買い物だと、本当に心から思っているんです。そうじゃなければ、お客様に勧められませんから」

 

いつのまにか九門は、契約書っぽい書類を取り出していた。

本連載は、2017年11月2日刊行の書籍『40歳独身のエリートサラリーマンが「不動産投資」のカモにされて大損した件』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

40歳独身のエリートサラリーマンが「不動産投資」のカモにされて大損した件

40歳独身のエリートサラリーマンが「不動産投資」のカモにされて大損した件

杉田 卓哉

幻冬舎メディアコンサルティング

大手上場企業に勤めるサラリーマン、須藤。40歳独身。将来への不安から、副収入を求めて「新築区分マンション投資」に手を出すが・・・。可愛い声の女性担当者がテレアポでおびき寄せ、イカつい営業マンが強引にクロージング!…

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