「社員を大事に思っている」ことを示す手だてとは?
公私混同を脱し、家族経営を見直すとはどういうものなのか。これをまとめていうならば、社長はもちろんのこと、ずっと経理を担当していた奥さんも、家族である社員も、まず会社は自分とは別の人格(法人格)があると理解して事業を営むということです。
その方向性で事業を営むことを考えると、酷な表現をしますが、社長の奥さんや家族の社員が身を退くべきケースもおおいにあるといえなくもありません。
社長も経理担当の奥さんも、家族である社員も「会社は社長のもの」と社長の私物化を黙認してしまうような雰囲気のままでは、零細を脱することなど不可能です。
零細と呼ばれるような小さな会社であっても、他人である社員を数名雇っているところもあるはずです。社長がその社員を「社員はみな家族のようなもの」と考えることは大事ですが、それは本来の家族ではなく、「志を同じくする重要な他人」ととらえて事業を進めていくという意味で大事なのです。
では、「家族のように社員を大事な存在だと思っていること」を社長はどう表現すればいいのでしょうか。
給料やボーナスをたくさん出せればいいのでしょうが、それが簡単にできるのならば、経営者はみな苦労しません。また、社員の出退勤などを社員の自由にするといったことも筋違いでしょう。それでは、社長はもちろん社員も会社に対して公私混同していきます。
小さな会社の社長が社員を大事に思っていることを示す手だては、唯一「経営状況の数字を社員に公開し、共有すること」です。
大手・上場企業では「株主」を大事な存在と位置づけ、経営状況を年次、四半期、月次とM&Aなどを行ったときなど、逐一、株主に公表し、報告しています。小さな会社でも、それと同じようなことを社長が社員に対して行うのです。さらに、公表するだけでなく、共有も必要です。
社員と一緒になり、会社の数字を勉強する大切さ
では、どのようにしていくことが共有することになるかを、具体的に見ていきましょう。
経営数字の公表に関しては、単にその月、その年の結果だけを示しても共有したことにはなりません。たとえば、「2か月後の年度末は、100万円くらいの黒字で締めることができそうだ。この機会に、パソコンなどの機種変更が必要なものがないか調べておいて」
「前期に続いて、今期も300万円くらいは黒字になりそうだ。久しぶりに社員旅行でも行こう!」
など、経営上の数字そのものと、その数字に対する社長の考え・行動のコメントを入れることはできるはずです。それらを社員が納得して受け止めてくれることで、初めて共有できたといえるのです。
これまでは、社員に何も伝えずに、ただ「業績が厳しい」などといっていたのかもしれません。少し業績のよかったときは、社員に詳しいことは伝えず、自分の懐を暖めていた社長もいるでしょう。
しかし、数字を公開し、そこにコメントを添えれば、社長の勝手にはできません。社員からも意見が出るはずです。
加えて、業績や経理上の数字をただオープンにするだけではなく、社員と一緒になって会社の数字というものを勉強していくことも大事です。
さらに、その過程で、「何をめざしているのか。会社が向かうべき方向性」を伝え、そのことを社員がどう考えているかを教えてもらうようにすることです。それが「共有する」ということなのです。
[図表1]社員と数字を共有するとは?
[図表2]社員と共有すべき数字の内容