小さな会社の社長は「いま」に追われている!?
社長は三つの人格を持つことが大事です。
その三つの人格のなかで特に留意しておきたい人格に「職人」気質があります。ここで、社長の職人気質について、あらためて考えてみましょう。
社長は未来を見て、ワクワクしながら経営に取り組んでいく存在であるべきです。これは大企業でも、中小企業でも変わりません。
もちろん零細と呼ばれるような小さな会社であっても同様で、本来は未来を見通しながらワクワクして経営に取り組む存在であるべきです。
ところが、現実は往々にして違います。とくに零細と呼ばれる小さな会社の実態は、まったく逆といっていいかもしれません。
未来を見通すといっても、たとえば製造業の場合は目の前に元請の社員という管理者がいて、納期に追われて仕事を進めないといけません。
それはまるで元請の非正規社員のような立場です。流通業も同様で、大手取引先の意向に反して自分の思うような経営はできないのが実態です。
つまり、小さな会社の社長は、社長であることを求められると同時に職人であることも求められる、いわば「職人社長」ということができるでしょう。また、そういう人が実際に多いようです。
立場が職人社長なら、ものの見方・考え方も同様です。社長ではありますが、「いま」しか見ていません。というより、「いま」に追われているというイメージです。もちろん、自分の仕事にプライドや誇りは持っています。
他人にとやかくいわれたくないという矜持もあり、仕事を自分の作品のように思っていることもあるでしょう。
しかし、それは職人の仕事であり、社長本来の仕事ではありません。零細といわれるような小さな会社を中小企業に、さらにその中小企業を成長軌道に乗せていこうとするならば、社長は「職人であり続けること」を放棄しないといけません。
現場から完全に身を退かなければいけないというわけではありませんが、それよりも社長には優先しなければならない仕事があると考えてもらいたいのです。
他の人に任せてもいいことは「任せる」
職人気質の社長であっても起業したときは、起業の熱意を持って会社を興したはずです。そして起業直後はお祝儀的な仕事も入り、順調にスタートできた人も多かったことでしょう。
ところが、数か月経った頃にはお祝儀的な仕事も一巡し、早くも〝踊り場〟に上がってしまう社長も出てきます。
経営においては「お金をどのようにして入れ、どのようにして使うか」が重要であることに気づかされます。目先の仕事を完璧にこなすとともに、先を見通した判断が必要であることに気づかされるのです。
そのときに大事な視点は、
「他の人に任せてもいいことは、任せること」
です。全部を自分でやっていこうとすると、結局何も達成できず、いつまで経っても零細のまま。やがて衰退の道をたどることになってしまうでしょう。
その職人社長も、マネジャーの視点を持つようになれば、他の人に仕事を任せていくことの重要性が理解できるようになります。「他の人にやってもらうと、全体がうまく進む」ということを学ぶのです。
そして、さらに起業家の視点を持つようになれば、未来の計画を立て始めるでしょう。「現在やっていること、それを過去に照らし合わせて判断すること」の多くを他の人に任せられれば、脱零細をめざす社長には、「未来のこと」しかやることがなくなってくるはずです。
任せるというのは、単に丸投げしてやってもらうということではありません。まずは、「自分だけ」でやらないようにすること。たとえば、社員を一人だけ雇い、職人社長がやっている職人部分の仕事を徐々に任せていくことでもいいでしょう。
半年かかることもあれば、1年かかることも、場合によっては任せきるにはもっと年数がかかることがあるかもしれません。
それでもあきらめず、根気よく教育して任せていくことが必要です。
職人気質の強い社長からは、
「職人としての仕事をほかの人に任せてしまうと、私はやることがなくなってしまう」という声が聞かれることもあります。
しかし、心配はまったく無用です。3重人格となった社長にはやるべきことはたくさんあります。しかも、起業家という人格が備わるので、社長はよりワクワクしながら成長のための仕事に全力で取り組めるようにもなるでしょう。
そのような仕事のしかたは、これまで経験したことがないので、はじめは戸惑うこともあるはずです。簡単には結果が出ないこともあるはずです。
しかし、見方を変えれば、これまで職人社長だった人にとって、とても新鮮な仕事ですし、正しく進めていけば必ず業績の向上という結果が見えてきます。そのことにワクワクしない社長なんていないのではないでしょうか?