「起業家という人格」=先を見通す理想主義者
前回の三つの人格は、それぞれ次のように肩書(役職)と対比することもできるでしょう。
①起業家=社長
②マネジャー=管理職
③職人=一般社員(従業員)
この三つの違いは、視点や視野の違いでもあります。それを踏まえると、三つの人格は図表のように表現できます。
[図表]起業家とマネジャーと職人
それぞれの人格によって、「見ているもの・方向性」が違います。
職人という人格の人、すなわち一般社員(従業員)は、現在の自分に視点を置きがちです。
いわゆる個人主義者です。それは一般社員としては悪いことではなく、「いまに集中して、業務にあたることが大事」と考えているのです。
マネジャーという人格の人は管理職で、過去を踏まえながらも現在から近い将来に視点を置いています。現実主義者といってもいいでしょう。「今期、目標を達成するには何に取り組むべきか」といった視点です。
起業家という人格の人が文字どおり社長で、現在から遠い未来まで見通していて、理想主義者ということができます。「3年先、5年先の自社の未来像を考えて、やるべき仕事を選んでいく」といった発想です。
創業時の「起業家の人格」を忘れていないか?
人格を上記図表のような視点の違いととらえると、どれか一つの人格だけにとらわれていても、バランスよくなどと考えていても、ダメなことがあらためてわかります。中小企業の社長は、基本は起業家の人格だと思いますが、ときに管理職(マネジャー)や従業員の視点に集中してものごとを考えることも必要です。
ただ、零細を脱しきれない会社の社長は、創業したときの起業家の人格を忘れ、マネジャーや職人の人格に慣れきってしまっている面もあるかもしれません。そのような社長には、「起業家の人格を呼び覚ませ!」と声を大にしていいたいところです。
ここで、小さな会社の社長につらい問いかけを一つしたいと思います。
「あなたは本当に、社長の器ですか?」
ぜひ、自問自答してみてください。
起業家の人格を持ち、社長の視点でものごとを見ているでしょうか。ときにマネジャーの人格に変わり、管理職の視点を持ち、ものごとに対処しているでしょうか。そして、納期や製品の精度チェックなど、乗り越えなければ先に進めないような難局を迎えたとき、職人の人格に変わり、いまに集中する視点で対処しているでしょうか。
このような問いに、自分自身で答えを出してみるのです。
「私は大丈夫」と答えることができる社長は「社長の器」を持った人です。
しかし、これらの問いかけに「YES!」と答えることに少しでも不安があるのなら、あなたは「社長の器」ではないのかもしれません。そのときは、自分のやってきた経営を見直し、一から「社長の器」を磨いていただくしかありません。
いわゆる零細と呼ばれる小さな会社の社長は、まさに「会社を維持成長させるか、たたむか」の瀬戸際、水際にいます。その社長には成長させる意志・意欲がなければなりません。前にも述べましたが、「このまま何とかやりくりできればいい」という選択肢の先には未来はないのです。
「零細といえども、会社をたたむのはイヤだ」と考える社長は多いはず。ただ、自分でたたむことは、恥ずかしいことでも途方にくれることでもありません。社員や取引先に多少は迷惑がかかるでしょうが、それも零細と呼ばれるような規模であるならば、最小限ですむはずです。脱零細をめざすのか、会社をたたむのか。まずは「自分が社長の器かどうか」を判断し、その結果「脱零細をめざす」というのであれば、その意志は本物であるといっていいでしょう。あとは迷わずその道を進んでいくのみです。