「家庭の経理」と「会社の経理」は異なる面が多い
典型的な家族経営で留意したいのは、「社長の奥さんが経理を担当している」状態です。一般的には、奥さんが財布のヒモをしっかり締め、家計をしっかりやっている夫婦・家庭は円満なものです。その感覚を経営に活かせば、社長である夫は無茶をせず、堅実な経営ができるようにもなるでしょう。
ですから、経理を社長の奥さんが担当している状態を真っ向から全否定するつもりはありません。
しかし、社長であれば、「本当にそのままでよいのだろうか?」と一度自ら問い直してみる必要もあります。
家庭の経理=家計と、会社の経理=会計とは異なる面が多々あります。一言でいうと、次のようになります。
•家計=入ってきたお金をやりくりすること
•会計=入ってくるお金をやりくりすること
家計でお金をやりくりする、つまり家計に入ってきた収入を貯金も含めて生活でどのように使うかを考えることを「家計脳」、どうやってお金を生み出すか(稼ぐか)から考えることを「会計脳」と考えてみましょう。
いずれにせよ、めざすのは「脱零細」です。そのためには、生産や販売の管理に中小企業に対応したPDCA(※詳しくは書籍 第3章を参照)を導入し、スパイラル・アップさせてサイクルを回していくことが必要です。
「家計脳」の奥さんが、事業の成長の足かせに!?
このことは資金管理についても同様です。そのとき重要なのは、入ってきたお金でどうやりくりしていくか以上に、
「お金の入ってくる筋道をどう差配していくか」
です。これこそが会計脳で考えるということです。たとえば、
•お金を生むために、設備や人材などにどう投資していくか
•その投資を回収し、さらに利益を生むための筋道をどう立てていくか
と考えることになります。つまり、これらは入ってきたお金を前提に考える家計脳では対応できない、いわば質の違う話といえます。
極端にいうと、
「しっかり者の妻が家計も会社の経理もしっかりとやっています!」
と社長がいうくらいなら、奥さんには別の仕事についてもらって、社長夫婦の家計の収入源を2本立てにしてもらったほうが、家庭は安定し、社長は経営に一直線に打ち込むことができるでしょう。
なお、このことは奥さんが社長で夫が経理を担当しているような場合も同様です。家計脳と会計脳では考え方が異なるのに同じものと考え、しかも、会社のお金を家計に融通しているとなれば、それも公私混同の悪しき面が現れているということになります。
奥さんが経理を担当することをやめたほうがいい理由がもう一つあります。家計脳と会計脳を切り離して考えることに関連して、奥さんは「社長である夫がやりたいことを止める」存在であるということです。
奥さんはつい家計脳で考え、社長である夫の行為を〝ムダづかい〟といったように考えてしまうキライがあります。
一概に断定できることではないので、奥さんがこうした考え方をしがちなことを絶対によくないといいきるつもりはありません。なかには奥さんにストップをかけられたことで〝命拾い〟をした経験のある社長もいるはずです。しかし、事業の成長は一定の資金を投入して、それを活かすことで実現するもの。常にリスクをともなうものです。
そのとき、奥さんがストップをかけ、家計脳で財布のヒモを放さなかったら、実現するものも実現しません。それは何としても避けたいところです。