税金の支払いを先送りにして、手元にキャッシュを残す
前回の続きです。
分かりやすく説明するために、まず物件を売却する際の課税から考えてみましょう。物件を売却した場合、売却金額から簿価を控除し、さらに売却に要する費用を控除した利益に対して課税されます。
売却金額-簿価-売却に要する費用=利益 ←課税
簿価とは、取得価格から毎年建物と設備の部分を減価償却していったその残額です。また、売却に要する費用とは、仲介手数料や売買契約書に貼付する印紙代などになります。
つまり、減価償却が終わった総額1億円(内、建物価格5000万円)の物件が1億円で売れた場合、単純に「売却金額1億円-購入金額1億円=0で利益はゼロ」となるわけではなく、所有している間に減価償却していた建物分(5000万円)が簿価から引かれていますので、「売却金額1億円-簿価5000万円=5000万円、この5000万円から売却に要する費用を引いたもの」に課税されるということです。
つまり、減価償却で数年にわたって税金がかからなかった利益に対して、ここで課税されるわけで、減価償却による節税は、本質的には課税を先送りしているといえます。
重要なのは課税額を一時的に減らして先送りしていることの効果と、出口戦略を考えることです。トータルでは納める税額は同じだとしても、減価償却を使って税金の支払いを先送りにすることで、手元に今すぐ使えるキャッシュを残すことができます。
経営という観点からすれば、そのキャッシュを運用できることに十分なメリットが生まれています。今日の1000万円と5年後の1000万円は価値が違います。手元に1000万円があれば、別の投資商品に投資することもできれば、本業の拡張資金に充てることもできるからです。5年後にしか1000万円が手元に入らないのであれば、同じことをしようとすれば金利を払って借り入れるか、手元資金を崩さなくてはなりません。
実際の収益物件の運用においては、キャッシュフローを得ながら減価償却で課税を先送りにしておき、税所得を赤字の年にぶつけて相殺する、あるいは減価償却が終わるタイミングで別の物件を追加で購入して、さらに課税を先送りにするといった臨機応変な対策も立てられます。
生命保険等と異なり、売却時期の任意設定が可能
さて、では売却時の利益にかかる税金は、どのように捉えればいいでしょうか。
収益物件活用の優れた点は、この売却時期を任意に決められることです。
たとえば、法人の場合であれば、減価償却を利用して下記図表のように4年間、3000万円ずつの利益を圧縮し、その税金である1200万円を繰り延べてきたとします。そして、5年後に1億2000万円の本業赤字が出たとして、その年にこの物件を売却することができれば、トータル4800万円の節税ができたことになります。
[図表]税の繰り延べによるタックスマネジメント
このように、収益物件の減価償却を活用することによって、税金をコントロールし、会社の経営の安定度を高めることができるのです。
他のメジャーな節税方法である、生命保険やオペレーティングリースではこの売却(出口)が商品設計にあらかじめ組み込まれており、任意に設定することができません。しかし、収益物件であれば、取得から売却までの一連の活動の中で、自分で戦略を立てられるのです。