原状に復する修繕であれば「修繕費」に該当
私の会社で管理する物件は、一部を除いて築20年以上の古い物件が中心です。管理に困って委託されるケースが多いので必然的に新しい物件が少なくなるという傾向にあります。物件が古いということは、当然、修繕や改修工事が必要になります。
こうしたなかで、多くのオーナーさんから、「修繕費」か「資本的支出」かの判断に迷うという相談を受けます。そのような場合、どのような判断で区別すればよいのでしょうか。
簡単にいえば、原状に復する修繕であれば「修繕費」です。分かりやすく言えば、壊れたところを元に戻すということです。これは一括で費用計上ができます。
一方、資産価値が上昇する工事の場合は「資本的支出」となり、減価償却資産となります。壊れたところを直すだけではなくて、今まで以上の価値を付ける工事といえます。
■修繕費(一括費用計上となる)具体例
● 塗装グレードの変わらない定期的な外壁塗装
● 退去時に以前と同グレードの壁紙へ張り替え
● ガス給湯器の入れ替え
■資本的支出(減価償却となる)具体例
● モルタル塗装をタイル張りへ変更
● グレードの高い壁紙へ張り替え
● 給湯器を追い焚き付きオートバスに変更
分かりやすくするため、「修繕費」「資本的支出」のどちらに当たるかを判断していただくためのフローチャートを下記図表に掲載しておきます。
[図表]修繕費と資本的支出のフローチャート
「原状回復の範囲内」の塗装工事なら計上可能
最も多い質問として、大きな金額のかかる塗装工事がありますが、一括での経費計上は果たして可能でしょうか?
答えは、一括で経費計上が可能です。ただし、あくまでも原状回復の範囲内の塗装工事に限るという前提はあります。
国税不服審判所裁決の「鉄筋コンクリート造り店舗共同住宅の外壁等の補修工事に要した金員は修繕費に当たるとした事例」(平成元年10月6日採決/裁決事例集節38-46頁)にもありますが、フッ素・光触媒など特別上質な材料を用いたものでなければ「修繕費」となり、一括で経費計上することが認められます。その他、コンクリートが爆裂した部分にシリコン等を注入する場合も、建物すべてにわたらない限り「修繕費」となります。
ただし、年収・不動産収入が高額になる人は、あえて一括で経費計上しないほうが税制面で有利となる場合もあります。このあたりは税理士の先生に相談してみてください。
この他に、「修繕費」か「資本的支出」かが分からない場合、「物件取得価額のおおむね10%以内なら修繕費」という目安もあるので、こちらの基準をクリアしていればさらに確実性は増します。
いずれにしても修繕費と資本的支出については個別の判断になりますので、きちんと不動産を分かる税理士に相談するのがポイントです。税理士によってここの判断は大きく分かれますし、分からない税理士は保守的なアドバイスしかできません。
あくまでも利益を最大化するという視点に立った工事および経理処理をする必要があるため収益物件の活用における税理士選びは非常に大切です。