タックスマネジメントが目的なら「法人名義」を選択
Q:誰の名義で取得するのがベスト?(法人、個人、配偶者、子どもなど)
収益物件を活用して資産形成を考える場合、取引主体の選択が重要になると思います。節税の面から見ると法人で取得したほうがメリットは多そうですが、法人を作って維持するのにもコストがかかります。法人と個人、どちらの名義で所有するほうが有利なのでしょうか?
A:何を目的に収益物件を取得するかによって、最適な取引主体(名義人)を選択する
物件を法人で取得するか個人で取得するかは、その目的によって判断します。
タックスマネジメントと会社の経営の安定化を目的とする場合は、本業の法人で取得します。
会社経営には、どうしても業績の波があるものです。利益が大きく出ることもあれば、赤字になることもあります。突発的に単年度で大きな利益が出るのであれば、法人で収益物件を取得して減価償却を大きく取ることによって、利益を圧縮し、税を繰り延べていくことが可能です。最終的には、物件売却時の利益に対して課税されることになりますが、法人にとって年度ごとに手元に残るキャッシュは、事業運営上、非常に価値の高いものなので、減価償却による節税は非常に有効な手段です。
また、売却のタイミングを自分で決められることも、収益物件の強みです。大きく収益が落ち込み赤字が出る年があれば、その年に物件を売却し、売却益を本業の赤字にぶつけることで相殺し、赤字幅を減らすことはもちろん、売却益にかかる税負担を軽くして経営の危機を救う役割も果たします。
このように、収益物件の減価償却を活用することによって、税金をコントロールし、節税しながら本業の会社の経営の安定度を高めることができるのです。
個人名義での取得で「所得税の節税」を狙う
個人で収益物件を取得する場合の目的は、減価償却を利用した所得税の節税と売却時の税率ギャップを利用した益出しになります。
個人の場合、収益物件からの賃料収入は、他の所得と通算されたうえで課税される総合課税になります。最高税率の55%(地方税含む)で考えた場合、仮に収益物件の減価償却で500万円の赤字が出れば、節税効果はその55%である約275万円です(厳密な計算によって数字は若干変わります)。
一方、収益物件の売却時の税率は、分離課税になります。また、収益物件を5年超所有したのちに売却する長期譲渡においては、税率が20%(短期譲渡の場合は税率約40%)となります。つまり、保有時の税率55 %と比較して、35%ものギャップが生まれます。
毎年の利益に対して55%の税率で節税を続け、売却時の利益には55%ではなく20%の税率しかかからない。この税率のギャップを活用することで、税の繰り延べだけではなく、文字通りの節税(減税)が実現し、利益の最大化が可能になります。
[図表]収益物件の取得主体
目的によっては、家族名義での取得も考えられます。
売却を考えずに長期で賃料収入を得る目的で物件を取得する場合は、自分より収入の低い家族(たとえば妻など)の名義で物件を取得するほうがよいでしょう。高収入の人が収益物件を取得した場合は、総合課税のため、全体の税率が高くなってしまうからです。
もしくは、資産管理会社を設立し、法人名義で取得するという方法もあります。法人税は今後引き下げの傾向にありますので、収益物件からの利益に対する課税を低く抑えることができます。また、家族に従業員としての給与を払い、その人件費を経費として計上することもできますし、業務上の経費と認められる範囲も大きくなります。
複数の収益物件を保有する場合は、目的に応じて法人と個人などに名義を分散してもよいでしょう。物件1号、2号は節税用で3号は長期の副収入狙いなど、複数の目的を組み合わせ、目的に応じて名義も分けるのです。いずれにせよ、収益物件の活用を考える際は、何が目的なのかを明確にしたうえで方針を決めることが重要です。