政権内の内部対立で、保護主義的傾向は薄まるか?
トランプ当選直後から懸念が高まっているのが、世界貿易戦争の勃発です。トランプ氏のキャッチフレーズは「アメリカ・ファースト」。
大統領に就任してすぐ署名した大統領令はTPP(環太平洋経済連携協定)からの離脱。また大統領就任直後に開催されたG20では、「反保護主義」の記述が声明文から削除されました。2008年に追加されてから9年、残されていた記述の削除です。
こうした姿を列記すれば、トランプ政権の保護主義的傾向は明らかですが、保護主義とは反対方向へ動いているのかと思わせることもあります。
2017年4月、米中首脳会談の最中、アメリカ軍はシリアへ59発の巡航ミサイルを発射しました。この決断をめぐっては政権内部で対立がありました。攻撃を支持する娘婿のクシュナー上級顧問と、中東への関与に消極的なバノン首席戦略官との対立です。
結果、トランプ大統領はクシュナー氏の主張を採用したばかりか、バノン氏は国家安全保障会議のメンバーから外されることとなりました。
トランプ政権内部で大きな力を占めている一派が、バノン氏やナバロ国家通商会議委員長といった保護主義的な「アメリカ・ファースト」派です。これに対してゴールドマン・サックス出身で国家経済会議の委員長を務めるコーン氏の一派があり、両派の対立があるとされていました。
対立の構図はNAFTA(北米自由貿易協定)離脱をめぐっても見られました。NAFTA離脱を支持する「アメリカ・ファースト」派の主張を当初、受け入れていたトランプ大統領ですが、クシュナー氏の強い説得によって翻意、再交渉する方針を示しています。
相次ぐ「アメリカ・ファースト」派の敗北、バノン氏の更迭はトランプ政権から保護主義的傾向が薄まっていることの象徴かもしれません。
[図表]トランプ政権の主な閣僚
保護主義へ回帰した場合、IMFや世界銀行と対立関係に
世界が望んでいるのは、自由貿易です。シリアへのミサイル攻撃の数日後、ドイツのメルケル首相とIMF(国際通貨基金)のラガルド専務理事は、「貿易政策の協力と連携はこれまでになく重要だ」とわざわざ共同声明を発表しました。
また、5月末に行なわれたG7会合の声明文には、「開かれた市場を維持するとともに保護主義と闘う」という記述が入れられました。
保護主義へ向かって走り出していたトランプ政権は本当に方向を変えたのならいいのですが、再び保護主義へと回帰するようだと、自由貿易を志向するIMF、世界銀行、ドイツ、OECDとの対立が深刻化しかねません。