市場は大規模なインフラ投資や大型減税を期待したが…
本連載では、どんな材料が市場を動かすのか、今まさに動いている旬のテーマをもとに解説していきましょう。
世界をあっと驚かせた大統領選挙から約5か月。正式な就任からちょうど100日目を迎える直前、トランプ政権はようやく税制改革案を提示しました。
トランプ政権の目玉の1つでしたが、直後の市場の反応は芳しくありませんでした。さらに、さまざまな疑惑も噴出し、早くもトランプ政権への失望の声も出てきています。果たして、トランプ政権はどこへ向かうのか、紐解いていきましょう。
トランプ当選の直後、「トランポノミクス」の単語が見出しを飾りました。「個人名+エコノミクス」といえば、2012年12月に成立した第2次安倍政権からアベノミクスがあります。
その前、1980年代のレーガン大統領時代には「レーガノミクス」がありました。レーガノミクスは新自由主義を特徴としていましたし、アベノミクスは「金融緩和主導による円安政策」です。では、トランポノミクスは何を特徴とするのでしょうか。
トランプ氏が選挙活動中に掲げていたのは、「税制、財政、移民、貿易、規制緩和」の5分野での改革でした。メディアで注目されたのは「国境の壁」に象徴される移民や貿易での保護主義でしたが、市場が期待したのは大規模なインフラ投資や大型減税です。
[図表]為替市場を動かす主な材料
政策が実行されれば期待できる「ドル高」
トランポノミクスとは、「財政出動主導によるドル高政策」になるのかもしれません。これまでに伝わった数字では、個人向け減税は今後10年間で2.2兆ドル、法人向けの減税は同じく10年間で9400億ドル。防衛費やインフラ投資に10年で4930億ドルの大型財政出動を公言しています。
しかし、ここにはいくつもの課題が見え隠れします。
①何を財源とするのか
②財源は持続性あるものになるのか
③議会を通過させられるのか
④完全雇用に近い今、減税やインフラ投資による経済成長の余地がどれだけあるのか
といった課題です。
トランプ当選以降、期待感が先走り、ドル高が進みましたが、実際に大統領に就任後は、議会対策などへの懸念から米ドルが売られる場面も目立ってきました。
政策遂行能力という面でも議会の承認が不要な「大統領令」が乱発されるばかりで、オバマケア代替法案の撤回で失点し、注目されたのはシリアへのミサイル攻撃でした。肝心の財政支出や規制緩和などが実行されるのは早くとも就任2年目、2018年以降となりそうです。
政策が実行されるかどうか、不確実性は高いのですが、実際に実行されれば景気の底上げ、ドル高が期待できる政策ではあります。トランプ大統領の舵取りには注意する必要があり、その中でもとくに危ぶまれるのは「反グローバル化」への動きです。
就任直後には大統領令として、イスラム圏の市民を対象とした入国禁止令を発動しました。移民政策の厳格化や保護主義的な通商政策などが気がかりですし、アメリカに対して巨額の貿易黒字を抱えた国への報復、制裁措置の発動なども心配です。
報復合戦、貿易戦争のような事態に陥れば、アメリカにとっては輸入物価の押し上げ要因となりインフレ率の上昇が危惧されますし、世界的に景気を落ち込ませることにもなりかねません。