「画一的なサービス」に陥りがちな日本の接客
ホスピタリティ・ビジネスという言葉は、今では皆さんにとって耳慣れた言葉になっていると思います。日本では従来から、ビジネスマナーとして名刺の渡し方やおじぎの角度など、形から入るものについてはきちんと時間をかけて指導されてきましたが、お客様との「心のやりとり」については効果的な研修は行われていなかったように思われます。
しかし、相手の「心」とのかかわり、相手へのおもいやりをともなうサービスこそが、ホスピタリティ=おもてなしになるのではないでしょうか。
ホテル、旅館、エアライン、レストラン、デパート、個人商店、観光地など、求められる基本は同じです。
控えめであることが美徳とされている日本では、仕事中は無駄口をきかずにきちんと業務を遂行していくことが最も大切と思う方が多く、ややもすると画一的なサービスに陥りがちです。
たとえば、コーヒーショップでの接客サービスを想像してみてください。多くの日本人は、コーヒーをこぼさず、熱いままで提供することをビジネスの本質ととらえています。
これは、商品・サービスを購入していただいたお客様への対価として当然提供すべき応対です。これはあくまでもビジネスを遂行するためのコミュニケーションなのです。
裏方のスタッフにも求められる「おもてなし」の姿勢
それに対して、お客様の好みを会話のなかで探ったりするのは、相手の心をつかむ「ハート・コミュニケーション」です。このハート・コミュニケーションは、現場では個々人に任せられていますが、これが大きなポイントの一つです。
日本にもある外資系コーヒーショップの例などは、想像しやすいのではないでしょうか。たとえば注文時に咳をしていたり、鼻言だったりすると、店員さんがコーヒーの入った紙カップに「おだいじに」と、スマイルのイラスト入りでメッセージを書いて渡してくれたりします。
彼らには日常会話を織り交ぜながら、コミュニケーションを取ろうとしている印象があります。これは彼らのハート・コミュニケーションですが、同時になすべき業務(ビジネス・コミュニケーション)もこなしていきます。
その傾向がよく表れているもう一つの例が、海外のショッピングセンターの清掃スタッフでしょう。日本では清掃スタッフは、「黒子」「裏方」のイメージがあるため、背景と溶け合うように黙々と仕事をこなしています。
しかし、アメリカなどでは、清掃スタッフはゲストとすれ違うときに「こんにちは」「今日はいい天気だね」と声をかけてきたり、空港ではゲストがカートを置こうとしているときなどは、「こっちのほうが置きやすいよ」などと気楽に指示してくれたりします。「足元に気をつけてね」と言われることもあります。
その職場に関わる人々すべてが、仕事をしながらお客様をおもてなしすることを忘れません。このあたりは日本人とは、仕事に対する姿勢の違いがあります。