変化の激しいグローバル化時代で生き残るためには、多くのビジネススキルが必要となります。そこで本連載では、自分自身の真のキャリアを活かす「パーソナル・グローバリゼーション」について考察します。

変動性、不確実性、複雑性、曖昧性=「VUCA」

2017年、実業家のドナルド・トランプが第45代アメリカ合衆国大統領に就任した。その前年の大統領選挙では、誰もがヒラリー・クリントンの勝利を予想していたのをひっくりかえす大逆転。これは、多くの人間にとって、想定外の出来事だった。

 

同じ2016年には、イギリスにおける国民投票で、イギリスのEU(欧州連合)からの脱退が可決された。これもまた、大方の予想を覆すものだった。

 

2001年のアメリカ同時多発テロ事件(9・11)も、2011年の東日本大震災(3・11)も、まったく予測不可能だった。2016年の世界経済フォーラム(ダボス会議)では、このような世界の現状を表すものとして「VUCAワールド」という言葉が多用された。

 

「VUCA」とは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)という、4つの頭文字をつないだもので、社会経済情勢の予測不可能性を象徴するキーワードだ。

先の読めない環境変化が、ビジネスのあり方を変える

ビジネス分野は、とくに環境激変の影響を受けやすい。

 

2001年に発売されたアップルのiPodは、またたくまに既存の音楽産業を変えた。1999年に242億ドルあった世界の音楽パッケージ(CD)売上は15年後には69億ドルと、3分の1以下になった。いまでは、売上の多くをデジタルデータの音楽配信サービスが占めている。SNSなどの余暇を過ごすツールの多様化によって、音楽の売上総額も大きく下がってしまった。

 

2007年のiPhoneの発売も、数多くの電子機器に引導を渡した。従来の携帯電話だけでなく、デジカメ、携帯音楽プレーヤー、携帯ゲーム機、デジタルレコーダー、腕時計などが、スマートフォン1台で事足りるようになったからだ。

 

2011年発売のiPadは、新聞・雑誌・書籍という、1000年以上続いた紙メディアを、死に至らしめようとしている。また、映像データの配信によって、DVD、ブルーレイといった映画パッケージ、パッケージのレンタルショップ、そしてテレビ局までもが衰退の危機に瀕している。

 

次に来るのは何だろうか。

 

おそらく、テスラの電気自動車とアップルやグーグルの自動運転技術は、既存の自動車業界に大きな変革をうながさずにはおかないだろう。工業国家日本に最後に残された自動車産業も、どのように舵取りを行うか、慎重に動かねばならない。

 

あのトヨタ自動車でさえも、業界の未来に対して危機感を抱いている。2017年の株主総会で、豊田章男社長は、次のように語った。

 

「今はライバルが増えている。(米国の電気自動車ベンチャーの)テスラや中国の自動車ベンチャー、さらにはグーグルやアップル、アマゾンなどの異業種も参入してきた。自動車の歴史をみると、過去はGMがずっと世界ナンバーワンでトヨタは存在していなかった。だが、今まさに80年前と同じことが起きている。ライバルはかつてのトヨタと同じかもしれない。競争相手やルールが大きく変わろうとしている」(東洋経済オンライン)

新たな発明で「既存のビジネス」が消滅する!?

変化が起きているのは、自動車業界だけではない。

 

ウーバーとエアビーアンドビーは、タクシー業界とホテル業界という旧態依然の産業に風穴を開けようとしている。

 

LINEなどに見られるように、スマホ1台で簡単につながりあえる個人は、モノやサービスの受け渡しに、プロフェッショナルの仲介を必要としなくなりつつある。

 

アマゾンなどECサイトの発展でB to Cの物流量が増大し、物流業界が悲鳴をあげているが、これもメーカー・問屋・販売店・消費者といった既存の物流チャンネルが崩壊していくことの前兆かもしれない。

 

遠い将来には、3Dプリンタが進化することで、物流自体が大きく減ることが予想される。デジタルデータを受け渡して、手元で物質化すればよくなるからだ。そうなれば、中間業者はますます減っていくだろう。

 

すでにテスラは、自動車ディーラーを通さずに直販で小売ネットワークを構築しようと、既存体制への挑戦姿勢を明確にしている。インターネットを介し自動車のソフトウェアを販売・更新し、修理を行う。重くて硬い鉄の塊のような自動車ですらも、ネットを通じて取引や修理ができるようになれば、多くの代理店が飯の種を失うことになるだろう。

 

日本だけではなく、世界の自動車業界の形がほんの数年で変わってしまう可能性がある。ただし、トヨタ自動車がこの状況をただ見ているはずはあるまい。豊田社長は変革に立ち向かうという意志表明をしており、新たな技術の挑戦に対しても何らかの手を打ってくるに違いない。

 

既存のビジネスが変わっていくというのは、根拠のない脅しではない。

 

AI(人工知能)、VR(仮想現実)、3Dプリンタ、IoT、ブロックチェーン(仮想通貨)、ナノテクノロジー、バイオテクノロジー、ロボティクス、ドローン(無人飛行機)、自動運転、そしてソーラーエネルギーと蓄電池の発達は、近いうちに私たちの社会を大きく変えるだろう。

 

そのとき、モノやサービスを右から左へ動かすだけの代理店や販売店、真の意味でクリエイティブとはいえない単純労働は、人間の手から奪われる。10年後あるいは20年後に、まだあなたの仕事は残っているだろうか。

本連載は、2017年8月25日刊行の書籍『パーソナル・グローバリゼーション』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

パーソナル・グローバリゼーション

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布留川 勝

幻冬舎メディアコンサルティング

変化の激しいグローバル化時代に必要とされるスキルについて、数多の日本企業のグローバル人材育成をサポートしてきたグローバル・エデュケーションアンドトレーニング・コンサルタンツ。 代表取締役の布留川勝氏がグローバル…

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