前回は、国立・自治体病院を取り巻く「繰入金」の問題について説明しました。今回は、病院を評価する際の基準と、医療提供体制の再編制による弊害を見ていきます。

国立・民間の区別なく、同等に評価する制度が必要

誤解してほしくないのは、わたしは決して従来の国立病院や自治体病院の役割を否定しているわけではないということです。わが国の医療を一定レベルに保つために、これらの病院は立派にその役目を果たしてきました。そのためにある程度の「繰入金」は必要とされ、認められてきたと思います。

 

しかし、限られた国家予算と医療資金源の中では、無制限の繰入金は許されません。これからは国立・自治体病院であれ、民間病院であれ、一定レベル以上の質を持つ病院(病床の大きさは関係ない)は同じように評価されるべきです。それも補助金ではなく診療報酬で、です。これを達成するには第三者による病院機能評価で一定の基準以上を保っていることが不可欠です。

 

現在は民間病院も立派に公的役割を果たしています。税金を支払い、なおかつ国立・自治体病院等と同じ診療報酬点数表に従って診療を行っています。一方、自由診療や株式会社のような利益配分は許されていません。見方によっては民間病院のほうが公的病院より多く公的役割を担っていると言えるのです。

地域医療構想で、病床機能の転換を迫られる病院も!?

日本では、増えすぎた病院を役割ごとに再編成する動きが進んでいます。

 

2014年の医療法改正では、すべての病院と有床診療所が高度急性期、急性期、回復期、慢性期の病床をどれだけ保有しているかを、都道府県に毎年報告する「病床機能報告」と呼ばれる仕組みがつくられました。また、各都道府県には各医療機関の病床と在宅医療の2025年の需要を推計し、それをベースに「地域医療構想」を策定することが義務付けられたのです。

 

自分たちがどのような病床機能をカバーしていて、将来はそれをどう展開する予定か、都道府県への報告は医療機関側の「自主的な判断」に委ねられました。しかし、同じような機能をカバーする医療機関が地域に複数あれば、それぞれのポジションをどう整理するか、話し合いや調整が不可欠です。

 

急性期を主張する病院がたくさんあれば調整は難航するでしょう。最終的に、これまでのポジションを捨て去り、別の機能への転換を迫られる病院も出てくるはずです。それどころか、病院としての存続自体をあきらめ、診療所や介護施設などとして再出発せざるを得なくなるかもしれません。あるいは最悪の場合、そのまま消えてなくなるかもしれないのです。

本連載は、2017年5月30日刊行の書籍『病院崩壊』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

病院崩壊

病院崩壊

吉田 静雄

幻冬舎メディアコンサルティング

病院が姿を消す!? 2025年を目前に高まる医療需要だが病院経営は逼迫し、医師の偏在は止まらない… 今、病院に何が起こっているのか? わが国の医療のあり方については、かねてより議論がなされてきました。 しかし、その…

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