前回は、日本の医療システムに影を落す医師不足・医療費増加の問題を取り上げました。今回は、政府による財政健全化計画で検討が進む「医療費削減」の概要を見ていきます。

患者の「金融資産状況」に応じた医療費負担の検討も

2016年度より、政府の「経済・財政再生計画」(財政健全化計画)に基づく各分野での改革が始まりました。

 

国と地方の財政を健全化させるため、歳出削減と経済の立て直しを両輪で進めようというもので、中でも社会保障は「歳出改革の重点分野」に位置付けられています。

 

医療関連では、病院が算定する入院基本料の中で点数設定が最も高い「7対1入院基本料の算定基準の厳格化」や、「在宅医療の推進」「医療費適正化計画に沿った医療費の地域格差の是正」などが挙がっています。

 

ただ、そもそもの発想が「歳出削減」なので、医療の観点が極めて乏しい印象が否めません。改革工程表は毎年見直されることになっていますが、これらはすでに決定事項です。

 

2016年末に固まった改革工程表の改定版には、より踏み込んで書き直されたものもあります。特に目を引くのが「人生の最終段階における医療のあり方」で、「患者本人による意思決定を基本として人生の最終段階における医療を進めるプロセスの普及を図る」と書かれています。

 

まだ詳しい内容は見えてきませんが、医療従事者による適切な情報提供と説明を前提に、「人生の最終段階における医療」という領域に踏み込むようです。

 

また、患者が保有する金融資産などの状況を、医療費負担に反映させる仕組みを検討する方向性も示されました。これまでのように年齢によって医療費の負担割合を設定するのではなく、経済的な余裕を正確に把握して、医療費負担に反映させようというのです。

 

将来的には個人番号(マイナンバー)の活用を検討しているようです。

財源確保の最大の焦点は、診療報酬と薬価・材料費

この財政健全化計画でもう一つ大切な点は、2018年度までの最初の3年間を「集中改革期間」に位置付けたことです。政府はこの間の社会保障関係費の自然増を、高齢化に伴う1.5兆円程度を目安に抑制させるという目標を打ち出しました。単純に計算すると社会保障関係費の自然増はこの間、1年当たり5000億円程度に抑えられることになります。

 

そして、削減分の財源確保をめぐり最大の焦点になったのが診療報酬と、医薬品・医療材料の公定価格である「薬価」「材料費」の見直しです。

 

医療費の大枠を前年度に比べどれだけ増やすか(減らすか)の目安となる診療報酬の改定率は、2016年度には、医療行為への対価に該当する「本体」がプラス0.49%とされました。診療報酬は2年ごとに見直されるので、この数字は2016年度と翌2017年度の医療費を、2015年度に比べわずかながら増やすことを意味します。一方、医薬品や医療材料の予算の増減を示す薬価・材料費の改定率は計1.33%引き下げることで決着しました。

 

これにより、本体と薬価・材料費を合わせた「診療報酬全体」での改定率は差し引きマイナス0.84%となり、さらに年間での販売額が当初の予想を大きく上回った医薬品の薬価の追加引き下げも決定しました。

 

薬価や材料費の国内外での格差も著しく(ジャーナリストの堤未果氏によると2〜3倍)、たとえばペースメーカーは米国では日本の半分以下の値段です。

本連載は、2017年5月30日刊行の書籍『病院崩壊 』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

病院崩壊

病院崩壊

吉田 静雄

幻冬舎メディアコンサルティング

病院が姿を消す!? 2025年を目前に高まる医療需要だが病院経営は逼迫し、医師の偏在は止まらない… 今、病院に何が起こっているのか? わが国の医療のあり方については、かねてより議論がなされてきました。 しかし、その…

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