経験によって得た知識(ナレッジ)を「見える化」
企業が持つ知的財産を活用するためには、ナレッジマネジメントが必要だということがよく言われます。私が日本ロシュにいたときにもナレッジマネジメントに関するプロジェクトがあり、日本での第一人者である野中郁次郎教授に講義をしてもらったこともありました。
ちょうど、人が経験したことがもとになった暗黙知から、見える形にした形式知までをどのように社内で導き出していくかについて考えていた時期でした。私の仕事は今もその延長線にあり、ITを活用することで継続しているのだと思います。
あることについてすごくナレッジを持っている人からは得られるものが多く、ときにはぜひ一緒に何か仕事をしてみたいと思うようになります。また優れた著作を読み込むと、直接その著者と会わなくても、そのナレッジに触れることができます。
スタジオで優秀な営業担当者や、ある内容について一番詳しい方、例えば書籍であれば編集者に話をしてもらって収録することは、そうしたナレッジを見える形にする試みのひとつです。
編集者のナレッジを見える化したトークは、会社の資産にもなります。営業担当者が書店を回っていて、そのときの話題に合った書籍を紹介したいと思ったら、編集者の声をそのまま聞かせるのが効果的でしょう。
本の実物を持っていくという方法ももちろんありますが、その場ではパラパラと見てもらうだけになりますし、何冊も持って回るのは大変です。それにどの本が行く先々で話題になるかまでは見通せません。そのときに編集者の動画を取り出して見せれば、書店の担当者が興味を持って置いてくれるかもしれません。
営業はトークだというのはいつの時代も真実ですが、トークをするために今までのように営業担当者だけでなく、社内の様々な部門にいる人が持つナレッジを、営業現場でもっと活用するべきです。編集者の1分間トークを動画で見て学び、場合によってはそれを顧客に直接見ていただくというのも、ナレッジを生かすひとつの方法です。
営業現場でのITの活用は、このような形であるべきだと私は思います。
動画コンテンツの共有で、経験者の同行も不要に
製薬業界だと、細かい表組や複雑なグラフをたくさん示して説明しなければならないことがよくあります。対話型でよくつくり込まれたタブレットのコンテンツでは、それを手際よく並べてプレゼンテーションができます。金融業界では、個々の資産の状況を入力して金融商品の運用シミュレーションを目の前でしてみせることもできるでしょう。
それに加えて、動画コンテンツを制作することで、同行してもらわなくてもその場にいない人の話を聞いてもらえます。
ITをうまく使いこなせば、多種多様な情報をうまくコーディネートして最適な順番で提示することができます。
会社の中で最も詳しい人による詳細な解説動画がつくられ、一度の利用だけでなく継続的な知識の習得に使われ続ける〝共有する仕組みづくり〞がこれからの会社の知識共有、ナレッジマネジメントの特徴になると私は考えています。インターネットができ、SNSで情報が共有される時代になり、次は企業の中でこのように情報が共有されるようになると思います。