AIが教えてくれる、効果的なコンテンツの組み合わせ
蓄積したログのビッグデータをAI(人工知能)システムに解析させると、Aというコンテンツを使ったら次はBに行くといいと教えてくれます。
例えばこのコンテンツの次にはデータ上で37.1%このコンテンツが使われていますといった具合です。アマゾンなどのネット販売サイトでは、こうした統計解析を駆使しておすすめの商品を紹介しています。
さらにAIに、今から提案しようとする内容に合わせてトークの順番と資料を一式揃えてもらうことも可能となります。すべてAIが言った通りにするわけではなく、いくつかの候補を見た中から最適と思うものを選択すれば、事前の訪問準備がとても楽になります。
コンテンツをどう使ったかというログがビッグデータ化されると、AIを使ってトークの内容のストーリー化ができます。次に何が来るべきか、どの組み合わせで使うかをAIが学習していきます。
訪問先の相手の性格やタイプによって、どういうストーリーがいいかまでも予測してくれれば、相手の心に響く話ができる確率が大幅に上がるのではないでしょうか。訪問するための準備に多くの時間をかけなくてもよくなります。
しかし経験が豊富な方は、実際の営業ではそれだけでは成り立たず、現場力ともいわれるトークにかかっていることをよくご存じだと思います。
トーク力の強化には、ロールプレイや動画を活用
ITの活用で営業担当を支援し、訪問計画や相手に響く対話のストーリーづくりができることを説明しました。これで準備が苦手だった担当者の成績がぐっと伸びるかもしれません。
ほかに営業担当の悩みでよく聞くのが、「トークができない」「思ったようにうまく話が展開できない」ということです。
トーク力の強化に使えるのは、ロールプレイやそれを録画した動画コンテンツです。ただし、動画を見て真似をすればいいというほど簡単なことではありません。MRの教育で動画を活用した例として、日本ロシュで私の先輩社員が立ち上げたRTV(ロシュTV)がありました。
MRの教育用に動画コンテンツが使えないかと考えて、1997年に導入されたこの社内放送の教育システムは、優秀なMRのトークを衛星放送でライブで全社に流すという画期的なものでした。ほかの営業担当のトークが見られるので好評でした。
もちろん、見るだけではそれを習得できることはありませんので、視聴後に営業所単位でロールプレイを行うなどで教育効果を高める工夫もされていました。
優秀なMRは、よくできた言い回しを瞬時にやってのけるだけのトーク力があります。しかし、すべての現場に共通して使える言い回しがあるわけではありません。
あるタイプの営業担当がある顧客に向けて話すのだからこのトークでいいけれど、ほかの人だと合わないし使えないということになります。その人のキャラクターに合った話し方がありますから、一生懸命言葉だけを真似しても意味がありません。
見て学ぶことも営業には大切ですが、人が持っているトークスキルはなかなかそれだけでは身につきません。営業現場はインタラクティブな対話の場ですからそのたびに局面が変化します。一般的なオープントークでの話題の広さから、自社関連領域の知識の広さまで、無限の広がりを持っているといっても過言ではありません。
その中で自社製品に限ったとしても、殺し文句を持っている営業担当のトークだけを下手に真似すると、かえっておかしなことになります。
第1章で、知り合いのドクターにプレゼンテーションをする練習の相手になってもらうMRの例を紹介しました(本書籍をご覧ください)。一人目は仲のよいドクターにお願いして、新製品の紹介を兼ねて、どう説明したら効能が伝わりやすいかを相談しました。ほかにも顔なじみの先生にいわば練習台になってもらって、ある程度準備ができたと思ったら攻略したいと思う相手のもとを訪問していました。
ですが、多くの人は先輩や同僚とのプレゼンの練習やロールプレイによる練習後に現場に行っていると思います。その際に練習と違うパターンを3回以上経験すると、「あの練習パターンはダメなんだよ」と思うようになってしまうのではないでしょうか。
ですが、この場合、本来の使い方から逸れていることがよくあり、逸れないで正しく学ぶことが必要です。