前回に引き続き、米国エンダウメントの「投資対象」を見ていきましょう。今回は、オルタナティブ資産について紹介します。※本連載では、株式会社GCIアセット・マネジメント、投資信託事業グループの執行役員である太田創氏が、「米国名門大学のエンダウメント投資戦略」とは何かを、初心者にもわかりやすく説明します。

貴金属・原油、農場といった実物資産も投資対象

今回のコラムでは、エンダウメントが運用しているオルタナティブ投資対象資産を見ていきましょう。オルタナティブ投資には様々な投資対象や投資手法があるため、今回は基本的なところから説明したいと思います。

 

 

[図表]オルタナティブ投資の概略

 

上の図表はオルタナティブ投資の概念になりますが、“オルタナティブ”(alternative)とは“代替手段”とか“非伝統的な手法”とかを表す言葉です。日本語では“代替投資”という場合もあります。

 

まず投資対象を見ていきましょう。通常、金融資産に投資する際は、従来の投資対象である株式(上場株式)や債券が最初に考慮されます。これら資産を伝統的資産と呼びます。

 

それに対して、オルタナティブ資産は株式(上場株式)や債券以外の投資対象資産を指します。具体的には、非上場株式であるプライベート・エクイティ(PE)、貴金属・原油などの商品(コモディティ)、森林・農場といった実物資産、道路・港湾施設などのインフラ、土地建物である不動産などがオルタナティブ資産と呼ばれます(日本で人気のある米国リートなども、広義にはオルタナティブ資産となります)。

 

加えて、金融資産を運用する際には、伝統的手法とオルタナティブ手法が存在します。伝統的手法は、伝統的資産である株式・債券を買い持ちする手法で、買い持ちを意味する“ロング・オンリー”(Long only)と呼ぶこともあります。文字通り、株式を買い付けて値上がり益が出るまで持ち続けるか、債券であれば満期償還まで運用する手法です。

 

一方、オルタナティブ手法は買い持ちのみならず、資金を借り入れて自己資金以上の運用資金でリターンを極大化すること(レバレッジ)や、株式を買い持ちしながら売却する株式を借りて株式の売り持ちもするロング・ショート(Long short)言われる手法もあります。

 

もしくは現物株式や債券を購入せず、株価指数先物・債券先物・為替先物といった金融派生商品(デリバティブ)だけを組み合わせてリターンを狙うマクロ戦略なども、オルタナティブ手法ではよく知られています。

エンダウメントがオルタナティブ投資を取り入れる理由

主要な米国エンダウメントのポートフォリオを見ると、約4割は伝統的資産、約6割はオルタナティブ投資に運用されています。米国株は好調に値上がりしていますし、債券も利回りは下がったとはいえ米国債はまだプラスの利回りで回っています。伝統的資産だけで十分ペイしそうなものですが、彼らはオルタナティブ投資を重要視しています。

 

それには、以下の理由があります。

 

(1)エンダウメントはリスク調整後リターンを重要視するので、例えば株式のように、たとえ大幅に値上がりしてもリスク対比のパフォーマンスが劣後する資産クラスは敬遠される。

 

 

(2)伝統的資産とオルタナティブ資産を組み合わせることで、相場環境と相関性の低いポートフォリオを構築できる。

 

(3)エンダウメントの目標リターンは、運用資産から年5%の拠出金と対インフレ(年約2%)を勘案した年7~8%となっている。リスク調整後で安定的にこの水準のリターンを上げていくためには、オルタナティブ投資を組み入れる必要がある。

 

このようにエンダウメントではオルタナティブ投資をうまく活用して、寄付金に基づく返済義務のない資金を半永久的に運用していくのです。

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