前回は、米国エンダウメントの「投資パフォーマンス」を紹介しました。今回は、米国エンダウメントの「投資対象」を見ていきましょう。※本連載では、株式会社GCIアセット・マネジメント、投資信託事業グループの執行役員である太田創氏が、「米国名門大学のエンダウメント投資戦略」とは何かを、初心者にもわかりやすく説明します。

集中投資のハーバード大学、分散投資のイェール大学

今回のコラムでは、エンダウメントが運用しているオルタナティブ投資資産についてお話しする予定でしたが、まずは伝統的資産の部分での投資行動を見ていきたいと思います。

 

米国では1億ドル(約112億円)超の運用資産を保有する機関投資家は、四半期ごとにSEC(米国証券取引委員会)に13Fと呼ばれる上場金融資産の保有明細を提出しなければなりません。ここで言う機関投資家とは、銀行、証券会社、年金、投資顧問などがその対象で、エンダウメントもその中に含まれます。

(参考URL:https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1082621/000095012317004805/0000950123-17-004805-index.htm

 

 

さて、このレポートは四半期末から45日以内に提出が義務付けられていますので、直近では6月末基準の内容が公表されています。このレポートを元に、全米三大エンダウメントが米国上場株式上場有価証券のポートフォリオの中身を見ていきましょう。

 

以下の表は6月末現在での米国3大エンダウメントの保有残高のトップ5銘柄です。

 

[図表]米国3大エンダウメントの上場株式保有銘柄

 

 

(注)WhaleWisdom.comよりそれぞれのエンダウメントのデータを入手し、GCIアセット・マネジメント作成。
(注)WhaleWisdom.comよりそれぞれのエンダウメントのデータを入手し、GCIアセット・マネジメント作成。

 

ポートフォリオの上位組み入れ銘柄はエンダウメント間で異なり、それぞれの運用方針の特徴が出ています。例えば、ハーバード・エンダウメントは上場株式のうち約9割をハイ・イールド債券に投資するETF(上場投信)に運用する集中投資スタイルです。

 

ハイ・イールド債券そのものは上場しておらず、各企業が発行する債券を個別に運用するには、本来銘柄選択の巧拙が問われるところです。

 

しかしながら、同エンダウメントは個別銘柄の調査を捨てて、運用コストを勘案したうえでで、その果実を得ようとしていると思われます。

 

なお、このハイ・イールド債券ETFのイールド(利回り)は年5%程度、年初来リターンは6%程度となっています。加えて、上場銘柄はすべてETFを組み入れているのがハーバードの特徴です。

 

一方、イェール大学エンダウメントは、上場株式の分散投資を行なっています。たった4銘柄だけの集中投資ではありますが、アロケーションを見ると約50%を海外株式に、残りの50%を米国個別株式に投資しています。投資セクターは天然資源(主として、天然ガスやその周辺産業)となっており、同セクターの将来性を買っていると思われます。

 

テキサス大学エンダウメントは更に分散投資が進んでいます。上場株式は24銘柄を組み入れていますが、上位5銘柄のシェアは6割弱で、ETFを中心にしながらも個別銘柄をも組み入れようという意図が見て取れます。

 

約2割を組み入れている“Williams Partners L.P.”はテキサス州に隣接するオクラホマ州タルサに本社を置く天然ガス採掘企業です。同エンダウメントは地の利を生かして、やはりこの企業の将来性を見ているのでしょう。

運用面では「イェール・エンダウメント」がリード

さて最近、この三大エンダウメントの2017年度(2017年6月末)の年間パフォーマンスが出揃いました。ハーバードは8.1%、イェールは11.3%、そしてテキサスは9.8%となっています。

 

上場株式ポートフォリオの観察と一年間の全体の運用成績ですべてを判断することはできませんが、この3大エンダウメントの中では、イェールが大きくリードしています。ハーバードとイェールは長らくライバル関係にあるのですが、最近ではイェール・エンダウメントに分がある構図となっています。

 

 

運用スタイルはそれぞれですが、ぜひ日本の個人投資家の皆さんも、こうしたアプローチを参考にしてみてください。集中投資型か分散型か。または、知見があるセクターに個別に運用するか。エンダウメントの運用戦略には奥深いものがあります。

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