前回に引き続き、「節材」の使用が新たな販路を切り開いた事例を見ていきましょう。今回は、地場産業企業が「コアマーケティング」に転換した理由を見ていきます。

オリジナル製品を扱うビジネスは「コアなファン」が必要

あえて節のある家具をつくる。このアイデアが形になれば、きっと話題を集める。自信はありましたが、もちろん不安もありました。

 

お客様の多くは、節のない家具を選ぶかもしれません。これまで多くの家具店やショールームでは、節のない家具が高級とされていたのだから、消費者の志向が「節なし信仰」になっていたとしても不思議ではなかったからです。

 

しかし、99%が節なし信仰だとしても、1%はそうではないのではないか。逆に節がある家具を部屋に置くことで、自然を愛し、ありのままの樹木を愛するという自分のスタイルが表現できると考える人もいるのではないか。

 

そういう人に向けて、より自然志向の強い家具を製作することも、私の会社のような地場産業企業だからこそできるマーケティングのひとつなのではないかと、私は考えたのです。

 

それはより広い顧客層をターゲットにする「マスマーケティング」ではなく、ひとつの本質にこだわる「コアマーケティング」の発想でした。私の会社のような、一つひとつが「自然からいただいた家具」というオリジナルの製品を扱うビジネスでは、マスよりもコアなファンを集める必要があると考えたのです。

「コアマーケティング」への転換で成功したメーカーも

実際、価値観が多様化した現在、世の中には99%より1%の「コア」をターゲットとした「コアマーケティング」の成功事例がたくさん溢れています。

 

たとえば自動車の世界では、マスマーケティングの極みであるトヨタ、日産、ホンダのような大手自動車メーカーが市場のシェアのほとんどを占めていますが、1994年に10番目のメーカーとして認可された光岡自動車は、コアマーケティングを駆使して存在感を出しています。シェアは市場の1%にも届きませんが、ファンは確実についています。

 

その創業は1968年。富山県で日産自動車や日野自動車のディーラー会社に勤務していた光岡進氏(創業者)は、日野がトヨタと業務提携したことを機に独立。板金塗装や整備、中古車販売などを経て、82年に自動二輪か原付の免許で乗れる50㏄の「ゼロハンカー」を開発して市場に登場します。

 

そこから紆余曲折を経てロータス・セブンのレプリカ車「ゼロワン」が組立車として認められてメーカーとなり、2001年のモーターショーでは「大蛇」を発表し、優れたデザインが評判を呼んで市販化に成功しました。

 

現在でも経営の中心は中古車販売で自動車開発部門の売上は全体の7%に過ぎませんが、それでも開発はやめません。資本金1億円、従業員400名あまりという規模は大手自動車メーカーの1%にも及びませんが、大手メーカーの量販車では飽き足らない、独特のデザインを愛するファンを開拓し、その心を鷲摑みにする「コアマーケティング」を追求しています。

 

あるいは最近JR東日本も参入した超高級サロン列車なども、コアマーケティングの結果です。そもそもはJR九州が始めた「ななつ星」が先駆けでしたが、2〜3泊で料金が100万円以上するような超高級列車なのですから、当然マスが対象ではありません。

 

ごくわずかな超高額所得者、もしくはある程度所得のある熱狂的な鉄道ファンという「1%狙い」です。

 

列車は1本しかなく、運行も月に何回かなのですからすぐに満員です。儲けにはつながらないと思いますが、その存在が話題を呼んで、列車の旅に新しい魅力が加わります。そこから新しい旅へのニーズを掘り起こそうという、コアマーケティングといっていいでしょう。マスを対象とする北陸新幹線や北海道新幹線などとは対照的な、コアマーケティングの成果でした。

本連載は、2017年7月28日刊行の書籍『よみがえる飛騨の匠』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

よみがえる飛騨の匠

よみがえる飛騨の匠

岡田 贊三

幻冬舎メディアコンサルティング

時代とともに移り変わる消費者ニーズの変化によって、崩壊の危機を迎えている地場産業。地場産業が生き残るためには「販売戦略」「製品開発」「生産体制」「後継者育成」「ブランディング」「地域プロモーション」の6つの改革…

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