前回は、飛驒の常識を覆した「節のある家具」づくりのプロジェクトを取り上げました。今回は、木材の「節」をデザインにすることを思い立った経緯を見ていきます。

木材に「節」があると価格が落ちる理由

現在の日本の山林の大半は、戦後の復興期、住宅資材が不足した時代に、建材として使われたスギやヒノキを植樹した人工林です。人工林は原生林と違い、人が手入れをしないと荒れていくばかりです。

 

節のない、丈夫で真っ直ぐな柱になるような木材は、下草を刈り、間伐をし、枝打ちを繰り返して木々を育てた山人の丹精さの賜物です。それゆえに無節の木材は高級であり、市場価値が高かったのです。

 

ところが時が流れ、その背景が人々の脳裏から忘れ去られた頃、「節なし信仰」だけが一人歩きをし始めます。実際はアメリカなど諸外国から輸入された木材であるのに、節があるというだけで嫌われる。選り好みが日本人を支配するようになり、当然節材は使われなくなりました。節があると価格が極端に落ちるという現象だけが残ったのです。

天然の植物には「節」があってあたり前

けれど本来、木材は工業製品ではありません。天然自然の植物です。だから節があってあたり前。節があるものとないものとを適材適所で使えばいいだけです。

 

まして家具材ならばなおのこと。建材に使われるのが針葉樹であるのに対し、家具の多くは広葉樹を使います。樹種によって木目や色の違いを楽しめるのが広葉樹の特徴です。ならば節もデザインのひとつとして捉えることはできないのか?

 

真っ直ぐなキュウリばかりがスーパーに並ぶ現状に、世間が少し疑問を持つようになったこのご時世に、節がある家具があってもいいのではないか。節をデザインとして楽しむような発想があってもいいのではないか。節がある家具を置くことで、部屋の雰囲気が変わることを喜ぶ感性があってもいいのではないか。

 

せっかく節を使おうと決めたのだから、これまでの製品ではなくむしろ節があることを全面に押し出した製品にしたい。これまで職人がいっていたような「こうでなければならない」という固定観念を覆すような家具をつくりたい。

 

もっといえば、製品だけでなく、これまでにないものをつくれば、これまでにない変化が会社全体に起こるのではないかという期待があったのかもしれません。

 

荒廃する日本の山林
荒廃する日本の山林

本連載は、2017年7月28日刊行の書籍『よみがえる飛騨の匠』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

よみがえる飛騨の匠

よみがえる飛騨の匠

岡田 贊三

幻冬舎メディアコンサルティング

時代とともに移り変わる消費者ニーズの変化によって、崩壊の危機を迎えている地場産業。地場産業が生き残るためには「販売戦略」「製品開発」「生産体制」「後継者育成」「ブランディング」「地域プロモーション」の6つの改革…

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