前回は、地場産業が生き残るために必要な「6つの改革」を紹介しました。今回からは、これまで廃材となっていた「節材」を利用した家具作りで、新たな販路を切り開いた事例を見ていきます。

なぜ木材に「節」があったら駄目なのか?

私が社長に就任して間もない頃。工場を視察している途中、とあるコーナーに山積みになった廃棄素材が目にとまりました。すぐに近くにいた職人を呼び止めて、なぜこんなに大量の不良素材が出るのか、理由を尋ねました。

 

「それは節材です。カットしてみたら木材の中に節があって、使えないとわかったんです」職人は平然と答えます。私はこの説明を素直に受け入れることができませんでした。なぜ節があったら使えないのか、私にはわからなかったからです。私の納得のいかない顔を見た職人は、ため息混じりに説明を始めました。

 

それによると、代々飛騨の家具は節のない素材でつくったものこそが美しい家具であり、そのような美しい家具をつくることが飛騨の家具職人の誇りだ―という美意識が受け継がれてきたとのことでした。それでも、私は納得できませんでした。

家具の「個性」と捉えて愛してくれる人もいるはず

確かに、私の会社で製造してきた家具は多くのユーザーに愛されています。しかし、節のある家具でも、それを「個性」だと捉えて愛してくれる人もいるはずだと思ったのです。

 

「それもわかるが、世の中自然志向ブームじゃないか。スーパーで売っている真っ直ぐなキュウリも露地で採れる曲がったキュウリも同じ味だといわれるだろ。真っ直ぐだから美味しいわけじゃないだろ。ならば木材には節があるのはあたり前だ。同じ木材なのに、なぜ節があったら家具に使えないんだ?」

 

私の反論に、職人は一瞬口ごもりましたが、それでも「前例がない」の一点張りで、なかなか賛同してくれませんでした。職人とそんな問答をしているうちに、私の脳裏に新しい家具のイメージが湧いてきました。私の場合、そうなるともう動き出さなければ気が済みません。閃いたその斬新な家具の素晴らしさに、私は夢中になったのです。

 

職人は最後まで怪訝な顔をしていましたが、私は半ば強引に新しいプロジェクトを始動しました。それはかつて飛驒産業ではありえなかった「節のある家具」をつくるという、非常識なチャレンジでした。

本連載は、2017年7月28日刊行の書籍『よみがえる飛騨の匠』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

よみがえる飛騨の匠

よみがえる飛騨の匠

岡田 贊三

幻冬舎メディアコンサルティング

時代とともに移り変わる消費者ニーズの変化によって、崩壊の危機を迎えている地場産業。地場産業が生き残るためには「販売戦略」「製品開発」「生産体制」「後継者育成」「ブランディング」「地域プロモーション」の6つの改革…

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