原価積み上げ方式の賃料設定では「空室」は埋まらない
賃料は市場、競合物件で決まるものです。市場と相手が決めるものといってもいいでしょう。これを理解せず、自分の支出から賃料を決める原価積み上げ方式の賃料設定では募集をかけても空室は埋まりません。
市場はオーナーの都合に合わせてくれるほど親切ではないのです。特に、募集開始からある程度時間が経っているのに、ビルを下見にくる企業がいない状況が続いている場合には、賃料設定の問題が理由であることが考えられます。早急に賃料設定を見直すべきです。
ちなみに不景気な時期には、ハイスペックで高額のオフィスよりも、同じ条件であればより安いオフィスを探すという現実的な選択をする企業が増えます。経済が拡張している時期であれば信用、採用などを考え、2倍、3倍高くても新築を選ぶ場合もありますが、景気が悪い時期にはそうした企業は減るもの。その意味では今の時代は中古にも十分勝機のある時代といえるわけです。
賃料値下げ=減益とは限らない
賃料の値下げについては、賃料を下げたら収入が減り、経営が苦しくなるから絶対にダメと否定的に考える人も少なくありません。
しかし、この考え方は短絡的過ぎます。空室時でも管理費、光熱費などの支払いは必要ですから、賃料を下げずに空室が続くと出費だけが増えていくことになります。それよりは多少賃料を下げても空室期間を短くするほうが、収益が上がるというのはよくある話です。
下図のシミュレーションは、賃料を坪当たり5000円下げるものの2年間トータルで見たところ値下げをしたほうが、収支がよい結果となっています。このほかにも、賃料を下げ、ほかの賃貸条件を見直すことで全体としての利益を維持するという方法もあります。
また、賃料を上げてもほかの賃貸条件を変えることで入居してもらいやすくするという手もあります。たとえば、入居を希望する企業が中小企業である場合には、入居時の保証金を減らし、賃料を上げるという方法です。
保証金はまとまった金額になりますから、これを用意するのは中小企業には負担になりますし、税制上資産として扱われるため、税金がかかります。ところが、家賃は経費となるため、税金はかかりません。とすると、払う側としては家賃が高くなっても入居時の保証金が少ないほうが支払いトータルで考えるとメリットがあるということになるのです。
もちろん、多額の保証金を用意する必要もなくなりますから、入居しやすくもなり、選ばれやすくもなり、競合に対して優位に立つこともできます。いずれにせよ、大事なのは、目先の利益に囚われるのではなく、2年間トータルで収支を考えるということです。
契約時の費用、家賃などの収入と管理費や光熱費などの支出を2年間でシミュレーションし、トータルでどちらが収益が上がることになるか。ビル全体の収益は、賃料だけでなく、経費なども含めて考えてみる必要があるのです。
定期借家契約をうまく活用して「賃料固定化」を防ぐ
やむを得ず値下げをする場合には、契約を定期借家にするという手があります。定期借家契約とは2000年3月1日に借地借家法が改正・施行されて認められるようになった賃貸借契約のことで、貸主と借主が対等な立場で契約期間や家賃などを自由に定め、合意の上で行われる賃貸借契約と定義されています。
定期借家契約には、いくつか一般的な賃貸借契約と異なる点があります。そのうち、ポイントとなるのは契約期間満了によって契約は終了し、更新されないという点です。再契約が可能な場合には、その旨の定めをしておくことはできますが、それは新しい契約となり、再契約をするにしても以前の契約は一度終了します。
つまり、一度入居したテナントが契約期間満了後もオフィスを借り続けたいと思った場合には新しく契約をしなくてはいけないということになります。
オフィスの場合、住宅とは異なり、気分や趣味といったもので企業が移転を考えることはありません。移転には多大な費用がかかりますし、移転前後は仕事の効率が落ちるなどのリスクもあるため、企業はよほどの事情がない限り、移転をしようとは思わないものです。ですから一度移転し、そのオフィスが気に入っている場合には、契約期間満了後も継続して契約を希望する可能性は非常に高いことになります。
そこで、契約期間が満了し、新しく契約するとなると、オーナー側は新しい条件を提示することができ、値下げした賃料を固定化しなくて済む可能性が出てきます。入居時に一度下げた賃料を、2年後に元の額あるいはそれ以上にすることができるかもしれないのです。
定期借家契約にはこのほかにも契約期間を自由に決めることができるという特徴などもあり、大規模ビルの場合にはそれを利用し、長期契約を結ぶ例を見かけますが、中小規模のオフィスビルでは長期に借りるテナントが少ないためか、定期借家契約を利用する例はあまりありません。しかし、使い方によってはオーナーにメリットをもたらすことができる制度ですから、ケースに応じて使い方を考えていくのが賢明です。