普段は「敵」である銀行が「味方」についた瞬間
ある会社で、含み損を抱える土地の売却を、進めていました。
売却には、根抵当を設定している、A銀行の協力が必要でした。
しかし、A銀行は、自分だけが有利になる条件を提示し、
それをのめないなら、この件はなかったことに、
と、体よく断わってきたのです。
根抵当を切り札にされて、
借入を全額返済したときに出直してこい!
と言われたようなものです。
そこに救いの手を差しのべてきたのが、
この会社との取引を希望していた、B銀行です。
その地域では、A銀行より格下の銀行です。
なので、A銀行にひとあわ吹かせたい、
という気持ちマンマンなのです。
A銀行とのこれまでの経緯を説明すると、
“ぜひ、協力させてください!”となったのです。
敵の敵は、味方です。銀行は時に、味方になるのです。
“で、どうすればいいんですか?”
経営者は、B銀行の支店長にたずねました。
“根抵当を外すには、全額返済すれば、いいんです。”
“そうですね。A銀行の支店長も、そう言ってました。”
“なので、
A銀行に全額返済できる資金を、私共が御社にお貸しします。
そのお金で、A銀行に全額返済してください。
で、A銀行に抵当権の解除を申し入れてください。”
“A銀行は嫌がりませんか?”
“返していいですか?と聞いたら、絶対に嫌がります。”
“そうですよね。”
“なので、何も聞かずにA銀行に振り込んでしまうのです。”
“いいんですか?”
“いいんです。
そうすれば、A銀行は、根抵当を解除せざるを得なくなります。”
恐るべし、B銀行の支店長です。
ライバル銀行を追い払うためなら、なんでもありなのです。
この対抗意識と行動力には、見習うべきものがあります。
銀行側の裏をかく「大胆な作戦」とは?
で、A銀行の根抵当が解除されたあと、
改めて、子会社で土地購入資金をB銀行から借りて、
当初考えていたスキームで土地の売買をし、
親会社はB銀行の借入を返す、ということになりました。
こうなれば、土地のオフバランスが、
当初の思惑通りに実現します。
B銀行にすれば、この会社でのA銀行のシェアを、
完全奪取した、という格好になるのです。
さらにB銀行の支店長が言いました。
“A銀行に全額返す日を決めて、
その日の朝9時30分に、支店長とのアポをとって、
銀行へ訪問してください。”
“どういうことですか?”
“振り込んだ直後に、根抵当の解除を申し入れるためです。”
B銀行の支店長は、よほどA銀行にうらみがあるのか、
なかなか手の込んだ作戦を教えてくれました。
“9時30分というのは、意味があるんですか?”
“A銀行には、9時すぎくらいに、私共から振込をしますから。”
“朝イチバンに振り込むんじゃないんですか?”
“朝イチバンだと、必ず口座の動きのチェックが入ります。
となると、その時点で目について、
訪問前に電話がかかってきます。それはちょっとやっかいです。
9時過ぎに振り込んで、9時30分に訪問すれば、
まだ、その時点では、全額振り込んだ事実に気づいていないはずです。
こういうことは、その場で一気にズバッ!といったほうがいいんですよ。”
いやはやなんとも、
現役支店長が放つ言葉には、妙に説得力があります。
“アポをとるときの要件は、なんて言えばいいんでしょうか?”
“今後のことでご相談がありますので、とでも言っておいてください。”
B銀行の支店長の言うとおりに、
振込日を決め、A銀行のアポをとりました。
B銀行からA銀行へ振り込む手続きも完了しました。
で、ついに、そのXデーがやってきたのです・・・。
(続)