10年前なら最低預け入れ額は1億円程度だったが・・・
近時、プライベートバンク・サービスを提供する金融機関で、欧米大手行を中心に最低預け入れ金額を引き上げる措置が取られていることは、読者の方々も頻繁に耳にされていると思う。
プライベートバンク・サービスは、金融ソリューションを個人向けに提供するという点では、たいへん良いものである。本来は法人に限らず、個人が金融サービスのメリットを受けられるようにしているわけであり、それ自体は良いことなのだが、残念ながら最近の流れは、その提供範囲を狭め、対象顧客をより選別していくという方向感が明らかである。
10年前には、プライベートバンクのサービスを受けるための最低預け入れ金額は、日本円なら1億円、USドルなら百万ドルという線が、最低預け入れ金額であった。しかし、先日お目にかかったスイスのプライベートバンクのマネージャーは、最低500万米ドルからしか受け付けられないと言っていた。隔世の感を感じる読者の方も多いだろう。
本来のプライベートバンクの姿を再認識する時期に
加えて、このところ、プライベートバンク・サービスを利用されている日本人の富裕層の方から、口座を保有しているスイスの銀行(プライベートバンク)から毎年税務報告を行っていることや、口座を開設した当時に遡って居住地の税制観点から問題がない口座であることを、税理士などの専門家に証明してもらうよう要請されるようになったと相談を受けることが増えている。
期限を設定して、期限内にそれができなければ、口座の解約さえ強制されるという話まで聞こえてくる。どうやら、背景には、スイスの金融監督当局が、スイスにあるプライベートバンク各行に対して、スイス域外に居住する顧客を対象とする場合には、顧客の居住国の法規制にも遵守していることの確認を促し、上述の措置を取るよう指導をしているという動きがあるようだ。
そもそもではあるが、スイスをはじめとするプライベートバンクが、世界中の富裕層から資産運用先として信頼を集めたのは、顧客の個人情報を厳格に守ってきたことが背景にある。しかし、アメリカや欧州各国、OECD加盟国などで、富裕層への課税強化が進んでいることや、プライベートバンクが富裕層の資産秘匿、ひいては課税逃れに利用されてきたとの批判が高まっていることもあり、取引の透明性の確保が要請されるようになった。現在では、スイスのプライベートバンクさえ、守秘義務の在り方は、大きく変わったといえよう。
一方で、資産防衛や資産運用のためにマーケットや商品へのアクセスを確保し、金融ソリューションに手が届くようにしておくことは、やはり富裕層であれば担保しておきたいということに変わりはない。市場が多様化し、変化も激しくなる中、あふれかえる雑多な情報を選別するにも、しっかりした眼を持つ金融機関との付き合いは重要になってくる。
もちろん、金融機関の法令遵守態勢も厳しく問われる昨今、危うい煙の立つところには、気をつけるべきであろう。今こそ、世界の金融規制の流れが大きく変化する中、プライベートバンクの本来ある姿を、利用者側も、金融機関側もしっかり認識しておくべき時ではなかろうか。