今回は、リーマン・ショックを契機に強化されてきた香港の投資家保護の制度のうち、「クーリング・オフ」制度について見ていきます。

非上場債券の一部もクーリング・オフの対象

前回・前々回は、香港の銀行の一部がリーマンショックでデフォルトを起こした「ミニボンド」と呼ばれる商品を数多くの個人投資家に販売をし、損失を与えたことを教訓にして、香港金融管理局(HKMA)と金融界が実行した投資家保護の強化策について見てきました。


これらの対策は2009年の初頭に正式に発表されましたが、その後も香港の金融業界はHKMAおよび証券先物取引委員会(SFC)と協調して、適合性原則に基づいて透明性が高く、かつ競争力のあるウェルスマネジメント・プライベートバンキングサービスを提供するための努力を続けてきました。本稿ではそうした中で導入された「クーリング・オフ」制度について見ていきます。


香港の一般顧客向け投資商品に関わるクーリング・オフ制度(Pre-Investment Cooling-off Period – PICOP)は、高齢者や仕組商品になじみのない顧客に対する投資家保護をより厚くすることを目的にしています。PICOPの主なポイントは以下の通りです。

 

<対象となる商品>
2011年にPICOPが導入された当初は、非上場のデリバティブ商品(仕組債、仕組預金等の仕組商品も含む)を対象としてスタートしましたが、その後以下のような特徴をもった非上場の債券もPICOPの対象に追加されました。


i) 満期日が延長される可能性のある債券
ii) 他の証券と交換することのできる債券
iii) 転換条件付きの債券
iv) 劣後債等

65歳という年齢がひとつの基準に

<対象となる顧客>
プロ投資家(Professional Investor)の基準(注)をクリアする顧客を除いた、一般の顧客の内、年齢と投資経験において以下のような条件に合致する顧客。


i) 65歳以上の顧客は原則PICOPの対象。ただし、購入をしようとしている商品の金額が顧客の金融資産総額の20%を超えず、かつ当該商品を以前に購入したことのある場合には、顧客からの申し入れがあれば、クーリングオフを免除することができる。
ii) 65歳未満の顧客は原則PICOPの対象外だが、購入をしようとしている商品の金額が顧客の金融資産総額の20%を超え、かつ当該商品の購入がはじめての場合にはPICOPの対象となる。

 

上記の基準に照らして対象となる取引に該当した場合には、販売する金融機関は顧客の投資適合性を確認した上で、対象商品を顧客に紹介した後、最低2日間のクーリングオフ期間を与えることが義務付けられています。従って、当該取引の具体的な価格等の取引条件が確定し、受注、そして注文執行を行うのは、クーリングオフ期間を過ぎてからとなります。

 

なお、香港では上記のPICOPの対象となる取引以外でも、65歳以上の顧客が投資商品の購入を検討する際に、金融機関による販売の場に、家族や知人を同席させる、または当該金融機関の非営業部門のスタッフを同席させることを要求する権利を認める、などにより、高齢者や投資経験の浅い顧客等を保護する工夫がなされています。

 

(注) 個人投資家の場合、投資運用資産の総額が800万香港ドル(1億2000万円強)を超えることを取引金融機関に証明することによりプロ投資家としての取り扱いを受けることが可能です。

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    本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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