今回からは、香港の投資家保護の制度について見ていきましょう。現在の制度は2008年のリーマン・ショックを契機に強化されたものです。

香港の銀行自体は危機を乗り越えたが・・・

香港の銀行で資産運用口座を開設する際には、前回触れた本人確認審査がまず行われますが、その次に、投資家保護を目的とした顧客の投資適合性審査と投資商品についてのリスク説明が行われます。


香港の投資家保護の制度は、2008年のリーマン・ブラザーズの破綻をきっかけに大きく変わりました。金融危機以前も、香港の金融機関はオープンな市場環境の中で様々な投資商品を個人投資家も含めた顧客に提供しており、そうした商品の中にはデリバティブを内包した仕組商品も多く含まれていました。

 

銀行の中にはリーマン・ブラザーズとその関連会社が組成・関与したクレジットリンク債や株式リンク債等の仕組商品(いわゆる「ミニボンド」)を数多くの個人投資家に小口で販売したところがありました。


こうしたミニボンドを販売した香港の銀行自体は、リーマン・ショックを何とか乗り越えることができ、香港の金融市場は危機を免れました。

数万件に上った香港金融管理局(HKMA)への苦情

一方でミニボンドを購入した顧客の大部分は個人投資家であり、中には虎の子の蓄えをつぎ込んだ顧客もいました。多くの個人投資家は販売した銀行から商品のリスクを十分に知らされていなかったどころか、むしろ安全な運用であるといった説明を受けて購入を決めた顧客も少なくなかったようです。

 

ミニボンドがリーマン・ブラザーズの破綻後、紙切れ同然となって、購入した顧客は販売した銀行にこぞって苦情を申し立てました。さらにはそれらの銀行を監督する立場にある香港金融管理局(HKMA)に数万件という苦情が寄せられる結果となり、大きな社会問題へとエスカレートしていきました。


HKMAと香港の金融界はこのミニボンド問題の原因究明の調査に多大なる資源を投入しました。香港銀行協会の下にリーマン関連投資商品に関するタスクフォースが設立され問題解決に向けた努力がなされ、さらに再発防止のためのさまざまな改善策が議論されました。


こうしたHKMAと金融界の有識者による議論の結果、最終的に、現在適用されている投資家保護の強化策が実行されることになりました。次回は、その具体的な内容を見ていきます。

本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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