信託制度の起源は中世英国の貴族社会!?
5.投資信託
(1)投資信託の特徴
投資信託は、多くの投資家から資金を集め、専門家が分散投資によって運用を行い、その運用成果を投資家に配分する投資商品です。日本では信託契約を用いる方式が多く用いられていて、資産の運用内容を決定する者と実際に資産を保管して運用する者が信託契約を締結しています。
信託の制度の起源は欧州にあるといわれています。ある説では英国の中世の貴族社会で十字軍が契機となったとされます。英国の貴族は十字軍に参加しましたが、貴族の財産は成人男子しか相続できない決まりであり、戦死してしまうと息子が成人に達していない場合、残された妻子は領地を去らなければなりませんでした。そこで、財産の名義を信頼する友人に書き換えて、留守中の財産の管理を一任する方法で、トラストと呼ばれました。これが信託の起源であるとするものですが、異説もあります。
信託の委託者が運用内容を決定する投資信託委託会社であり、資産を保管・運用する受託者が信託銀行です。これに商品を販売する販売会社として証券会社、銀行があります。
このなかで中心的役割を果たすのは、本来、投資信託委託会社ですが、実務では販売会社の意向が投資信託商品の設計に強く反映されているようです。投資信託には販売手数料と運用管理費用(信託報酬)、そして信託財産留保額があります。販売手数料は投資信託の販売時に発生するもので、販売会社の収入となります。この手数料がないノーロード・ファンドもインターネット販売ではあるようですが、一般的ではありません。
世界的にみても非常に高額な日本の運用管理費用
この販売手数料は投資信託を販売する銀行の大きな収益源となっています。投資信託は長期投資が原則ですが、金融庁の試算では、銀行の投資信託の販売は乗換勧誘が多いとされています。モデルケースで試算すると、2003年3月末から10年間、2年ごとに、その時に最も人気のあった投資信託に乗り換えた場合、分配金受取のケースで投資した資産は10年間で約3%減少したという結果になりました(販売手数料3.1%、税率は10%と仮定)。
これは運用益のほとんどが販売手数料でなくなったからであり、運用自体はプラス約12%でした。ですから、投資信託は長期投資、長期保有を原則とすべきといえます。しかし、日本の投資信託の平均運用年数は6年前後となっており、長期投資の原則とは大きく異なっているのが実情です。
運用管理費用(信託報酬)は委託者報酬、代行手数料、受託者報酬に分かれます。代行手数料は販売会社の収入となりますが、日本ではこの部分を中心に運用管理費用が世界的にみて非常に高くなっており、問題となっています。しかし、後で述べるインデックス・ファンドやETFは、この費用が安価となっています。
「公社債投資信託」と「株式投資信託」の違いとは?
信託財産留保額は、投資信託を解約すると運用資産を現金化する必要があることから、その費用を投資信託を解約する人が支払い、信託財産に繰り入れるためのものです。実際の費用負担は投資信託の投資を続けている人が負担するわけですから、信託財産に繰り入れて公平を期すわけであり、販売会社などが受け取るものではありません。
投資信託の情報開示、ディスクロージャー制度としては、目論見書と運用報告書があります。目論見書には投資のリスクなどの重要事項が説明されており、きわめて重要なものですが、内容が精緻すぎて実際に読むことは一般の人には無理でしょう。そこで、内容の重要な部分である交付目論見書と詳細な情報を記載した請求目論見書に分けられていて、交付目論見書だけで取引は可能となっています。また、運用報告書も交付運用報告書と運用報告書(全体版)に分かれ、2段階化されています。
投資信託は投資対象によって公社債投資信託と株式投資信託に分かれています。公社債投資信託は株式は一切組み入れることはできないのですが、株式投資信託は実際に株式が組み入れられていなくても約款で株式が組み入れ可能となっていれば株式投資信託として扱われます。そのため債券に投資する投資信託が株式投資信託として作られていることがあります。これは、かつては税制の関係から商品設計の自由度が高い株式投資信託が使用されていたからです。
なお、2016年1月から公社債投資信託の税金が大きく変わり、公社債投資信託と株式投資信託とでは「元本払戻金」や「配当控除」の制度を除いては、税法上はあまり違いがなくなりました。
また、投資信託は、単位型と追加型に分けられます。かつては追加設定、つまり追加で購入できない単位型が多かったのですが、現在では追加購入、つまり、いつでも購入できる追加型が主流となっています。