一般企業の前受金に相当する「未成工事受入金」
建設業の特徴的な勘定科目に、「未成工事受入金」と「未成工事支出金」があります。
「未成工事受入金」とは、一般企業の前受金に相当するものです。発注者から、工事の完成前に、請負代金の一部を受領する場合などがこれにあたります。新築住宅やリフォーム工事などでは、契約時に契約金として代金の一部を受領するケースもあります。
ゼネコンなどからの下請工事の場合には、工期が長く、下請会社の立替えが多くなるため、出来高と称して工事代金を分割して受領します。いずれの場合も、工事の完成時には完成工事高(売上)に充当します。
「未成工事支出金」とは、売上になる前の工事代金の立替え金のことで、未完成工事に要した工事原価項目を集計し、棚卸資産として計上するものです。材料費・労務費・外注費・経費などに分類して管理する必要があります。税理士さんによっては、これを仕掛工事という科目で取り扱う場合もあります。
「未成工事受入金」と「未成工事支出金」、この2つの項目がほかの業種にはなく、中小建設業の経理が資金の管理が十分にできずに「どんぶり勘定」になりやすい理由です。これまで私が担当してきた建設会社の多くは、決算時に「未成工事支出金」を手で拾い、計算して税理士さんの決算処理に用いていますが、拾いもれが多発して、正しくない決算書になっています。
また、「未成工事支出金」や「未成工事受入金」の勘定科目がない、商業簿記的な決算書も少なくありません。経理体制が整っていない会社では、「未成工事受入金」の勘定科目がなく、得意先への請求高や入金高を、すべて売上として処理している会社もありました。
それらは正しい決算とはいえず、「未成工事支出金」の計上もれなどは税務調査で指摘され、修正申告を余儀なくされます。
とくに規模の小さい建設会社は、未成工事の把握が重要です。なぜなら、未成工事を把握しないまま会社の規模が大きくなった場合、実際の利益との乖離(かいり)が大きくなるからです。
実際の経営状況がわからないまま、会社規模が拡大するのは非常に危険です。
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2つの勘定科目の処理次第で、建設業の利益は変わる
<改善事例その3 専用ソフトで正しい試算表に>
土木工事業と建築工事業の年商10億円のC社では、決算まで「未成工事受入金」と「未成工事支出金」の把握ができず、毎月の試算表が正しいとはいえませんでした。
公共工事などの前受金を「未成工事受入金」として処理せずに、売上高で計上していたため、期中は大きく利益が発生して、税金対策なども考えていました。
しかし、前受金として入金していた工事代金を、決算時に売上高から「未成工事受入金」に振り替えたため、大きく利益が減少して赤字になってしまいました。
そこで、専用ソフトを使って「未成工事受入金」と「未成工事支出金」を毎月の試算表に反映するようにしたところ、決算時と同じように正しい試算表が作成できるようになりました。業績をタイムリーに把握できるようにもなり、結果として、銀行からの評価も高まりました。
このように、「未成工事受入金」と「未成工事支出金」の2つの勘定科目の処理次第で、建設業の利益は変わります。「脱!どんぶり勘定」の肝といえるでしょう。
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