発注者の状況を知らないと「不渡り」をつかむリスクも
発注者が建築主(個人客)の場合は、契約金や中間金、完成金が住宅ローンなどから入金になり、倒産など不良債権になるリスクは少ないのですが、建設会社など下請工事の場合には、お客様の状況を知らずに取引し、不渡りをつかまされて痛い思いをされる会社があります。
専門工事会社のM社では、新規の取引先からの発注をとても喜んでいました。しかし、工事を完成させて請求書を送付しても、予定の日時に支払いが実行されませんでした。催促をしても支払われません。しばらくすると、弁護士名の入った自己破産申請の通知書が届き、結局、一度も入金されることなく、相手は倒産しました。
推察するところ、支払いの遅延が続き、従来の取引先に仕事を受けてもらえなかったため、M社に発注したのではないでしょうか。新規の取引先から仕事を受注する際は、相手の信用度を把握しておく必要があると痛感しました。
これまで、取引先の経営状況などを知らずに仕事をしている会社を多く見てきました。協力会社など、仕入先の場合は金銭的なリスクは少ないのですが、工事の最中で協力会社が倒産し、その現場を完成させるために、途中から違う業者に引継ぎをお願いするケースがあります。
その場合、やはり現場の施工方法や今までの工事の進行状況の確認など、大幅なロスが発生して、大きな赤字を出した事例も見ています。
建設業許可の内容を閲覧し、信用度を調査
では、取引先が信用できる会社かどうか、どうすればわかるのでしょうか。
建設業の場合は、幸いなことに建設業許可があります。都道府県の許可業者であれば、県庁などの建設業許可の担当部署に出向けば、無料で許可内容が閲覧できます。毎年、事業年度終了届といって、1年間に施工した工事経歴書や決算成績(貸借対照表・損益計算書・製造原価報告書・利益処分など)の報告が義務づけられており、それらの資料も閲覧することができるのです。
信用調査機関も、調査先の会社から決算書の公表を拒まれても、これらの閲覧で会社の信用調査の裏付けをとることができます。
■建設業の許可について
建設業許可の種類は、土木一式工事(土木工事業)、建築一式工事(建築工事業)、大工工事(大工工事業)、左官工事(左官工事業)、とび・土工・コンクリート工事(とび・土工工事業)、石工事(石工事業)、屋根工事(屋根工事業)、電気工事(電気工事業)……など、29業種あります。
建設業を営む場合は、元請・下請を問わず、建設業の許可を受けなければなりません。
建設業許可のない業者は、500万円(消費税含む)未満の軽微な建設工事しか請け負うことができません。建築一式工事の場合は、1件1500万円(消費税含む)未満の工事、または木造住宅で延べ面積150平方メートル未満の工事です。
これ以上の工事を請け負う場合は、建設業許可が必要です。
■建設業許可の2つの区分
①一般建設業許可
一般建設業許可は、「軽微な建設工事」以外の工事を受注することができます。建設工事を直接受注し、自ら施工する場合、金額の制限を受けることはありません。また、下請業者には次に説明する特定建設業許可は必要ありませんので、下請としてだけ営業しようとする場合は、一般建設業許可で十分です。
工事を元請として受注し、下請に発注する場合は、合計額が4000万円(建築一式工事の場合は6000万円。いずれも消費税含む)未満の工事を請け負うことができます。それ以上の金額の工事を下請に出す場合は、特定建設業許可が必要です。
②特定建設業許可
特定建設業許可は、元請として工事を受注する場合のみの要件です。前述した通り、発注者から直接請け負った1件の工事につき、下請に出す代金の合計額が4000万円(建築一式工事は6000万円。いずれも消費税含む)以上となる場合、特定建設業許可が必要です。
●500万円(消費税込)未満の軽微な建設工事のみ行う場合⇨許可は不要
●下請工事のみ行う場合→一般建設業許可
●工事を元請として受注する場合
下請に発注する合計金額4000万円(消費税込)未満⇨一般建設業許可
下請に発注する合計金額4000万円(消費税込)以上⇨特定建設業許可
*建築一式工事の場合は、前記の金額が6000万円(消費税込)になります。
特定建設業許可の趣旨は、
●下請業者の保護
●建設工事の適正な施工の確保
です。ですから、許可要件の財産的要件と専任技術者の要件は、一般建設業許可より特定建設業許可の方がより厳しい要件が求められています。
また建設業許可には、知事許可と大臣許可があります。営業所の所在地と同じ都道府県内のみで建設業を営む場合には、知事許可が必要です。本社など主たる営業所を置いた都道府県と、それ以外の都道府県にも営業所を設けて建設業を営むには、国土交通大臣の許可が必要です。
その割合は、
大臣許可 約2パーセント
知事許可 約98パーセント
特定建設業許可 約9パーセント
一般建設業許可 約91パーセント
となり、圧倒的に中小の建設業が多いことがわかります(以下の図表を参照)。新規で許可を取得する場合、そのほとんどが一般建設業許可といえるでしょう。
[図表]建設業許可(登録)業者数
話を戻しますと、新規の取引先からの受注時には、建設業許可の種類や許可番号を、名刺やホームページから調べて県庁などで閲覧してくることをおすすめします。
そういった業績的な側面と、もう1つは、実際に社長が会社に訪問して、その会社の雰囲気や仕事の種類、どんな工事を中心に営業しているか、相手の社長はどんな方かなどを肌で感じることも大切です。
ややもすれば、建設会社の経営者の中には、取引先を熟知するという社長本来の仕事をおろそかにする方が多く存在します。取引先の状況は、会社のリスク判断には不可欠なことだと思います。