売掛先の「締め日」「支払い条件」等を把握していない
工事代金の回収と支払いのズレ以外に、売掛金の管理が不十分な会社があります。これには、大きく2つの理由が考えられます。
1つ目は、売掛先の締め日および支払い条件などをきちんと把握していないためです。売掛金の回収までの日数が長く、自社の支払いサイトと合わなければ、当然、資金不足が生じてしまいます。
たとえば、自社の支払い条件が「20日締めの翌月20日払い」で、売上先の支払い(入金)条件が「20日締めの翌々月10日払い」の場合を見てみましょう。
(例)
●9月20日に外注先から150万円の請求がある→10月20日に150万円を支払う
●9月20日に売上先へ200万円を請求→11月10日に200万円が入金される
→10月20日〜11月10日までの間、150万円の資金不足が発生!
これでは、主要な取引先や金額の大きな取引になればなるほど、資金不足が生じ、「勘定合って銭足らず」の状態になるのも不思議ではありません。
売掛金の「内容」をしっかり把握できているか?
2つ目は、「どんぶり勘定」で、売掛金の内容を把握していないためです。建設業では、工事ごとに請求金額と支払い金額が発生しますが、請求した金額が全額入金にならないケースが見られます。工事の査定残や完成後に支払われる予定の保留金の存在で、これらはいずれ入金になるので、管理ができていれば問題ありません。
一方、入金にならない元請先からの産廃処理費や、材料支給の金額などには注意が必要です。元請先では相殺扱いとなっていますが、自社の経理では、入金された金額のみを売掛金の回収金額として処理します。元請先から値引きなどが発生していても、経理的には未処理のため、いつまでも売掛金の残高として残ります。
売上に計上された売掛金(建設業では完成工事未収入金と表示)の中に、回収できない売掛金が含まれていた場合は、その分の消費税も納付することや利益から除くことが正しいのですが、未処理のため、正しくない利益が加算されることになります。
(例)
工事請負額 100万円
材料支給額 10万円(相殺)
値引き 5万円
実際の受取額 85万円
この受領額を除いた15万円の会計処理を、値引きや材料相殺等で処理すべき。
売掛金と並んで、「勘定合って銭足らず」の理由に、「未成工事支出金」の問題があります。
「未成工事支出金」とは、売上になる前の工事代金の立替え金です。つまり、在庫商品と同じ意味で、貸借対照表上は会社の資産です。ですから、支払った工事代金分のお金は減るわけですが、完成するまで会社の財産として計上され、原価(経費)の扱いになりません。
また、工事は実施していますが、クレームや元請先がお客様から未回収のため支払っていただけないなど、元請先に請求できない工事代金があります。これらは、そのまま「未成工事支出金」として計上されているため、経費として処理されていない場合があります(「未成工事支出金」から除けば、完成工事原価に入るため、当期の原価に算入されます)。
たとえば、不動産会社がたくさんの不良在庫を抱えて資金繰りに行き詰まり、倒産に至るように、黒字倒産ということになります。会社は、赤字では倒産しません。お金が不足したときに倒産するのです。
<改善事例その2 原価管理ソフト導入で請求もれをゼロに>
専門工事業の年商8億円のB社では、契約書などのない小規模工事については、元請先の担当者からの要請で先行して工事を進めています。それらについて、注文書が未着で請求できない事例も発生していましたが、詳細を把握するための仕組みがありませんでした。
この問題を改善するために、原価管理ソフトを導入して、すべての工事に工事番号を付け、工事ごとの原価の把握をしたところ、請求もれがなくなりました。
毎月、「未成工事支出金」の内訳書を作成して、工事部担当者や工事部長などが元請先に注文書の未着物件を問い合わせ、注文書の発行を依頼します。その結果、工事代金の請求・回収がもれなくできるようになりました。
元請先の都合で回収が難しい工事は、社長に報告の上、決裁を仰いで完成工事原価に振り替えるよう、仕組み作りも整いました。
このように、小さい工事の代金回収が促進されると、利益率の改善が図れると同時に、回収不可の工事代金を完成工事原価にすることができます。未成工事の扱いから、当月の原価として処理できることで、不良在庫に等しい「未成工事支出金」がなくなり、正しい工事原価計上に改善できました。