今回は、贈与税の「連帯納付義務」の問題点と今後の課題について見ていきます。※本連載は、みどり総合法律事務所の所長・弁護士の関戸一考氏、同じく弁護士の関戸京子氏の共著、『新・税金裁判ものがたり』(メディアイランド)の中から一部を抜粋し、具体例を題材に、税金裁判の現状と課題を解説します。

課税庁の職務怠慢…国家賠償請求はできるのか?

(4)国家賠償請求について考える


A子さんが和解に際して支払った1億5000万円は、Cさんの未払いの税金に充当することが十分可能でした。そうである以上Aさんは税務署の職員の職務の怠慢について、国家賠償請求はできないのでしょうか。


<考え方の指針>


国家賠償請求とは、公務員が違法行為を行い、それによって損害を被った国民が国に対し賠償を求めることを言います(国家賠償法1条1項)。請求が認められるには、課税庁の職員が負うべき注意義務に違反した(違法行為をした)ことを主張・立証しなければなりません。


<A子さんについてはどう考えるべきか>


課税庁の職員は、国税通則法25条等に基づいて国税について課税徴収権限を有しています。また、平成11年7月16日に成立した財務省設置法3条1項の中に、財務省には適正かつ公平な課税の実現を図る任務があることが初めて定められました。そうであるならば、課税庁は適正な課税のために徴収権限を行使すべき法的義務(同法19条)を負うことになります。


本件では、A子さんが相続税の申告に先立ち贈与の事実を裏付ける資料を提出して適正な徴収を求めています。贈与額4億円で税額2億円近くに上っており、法定申告期限はとっくに過ぎています。そうであれば、速やかに調査を開始すべきでしょう。

 

次に、A子さんが和解をし、1億5000万円を払うに際し、税務署は守秘義務を盾にしてCさんが無申告であることを告げず、みすみす徴収の機会をなくしてしまったということも問題となり得ます。

 

A子さんは、Cさんに未納分があるならば、未納分に1億5000万円を充てる意思を示して、Cさんの申告状況の問い合わせをしています。せめて申告がされていない旨告知すべきでした。

 

Cさんに対して早期に何ら調査も徴収もしない税務署の対応は、まるで連帯納付義務者であるA子さんから徴収すれば足りると言わんばかりです。


ちなみに、本件では督促処分を受けたA子さんが税務署に相談に行ったところ、税務署の職員は「あなたは連帯納付義務者なので、早く納付してください。あとはCさんに求償して裁判でも何でもやったらいいでしょう」と放言したということです。この場合には少なくともCさんから回収できなくなった1億5000万円分についてA子さんに督促処分をする以上、課税庁の職務怠慢を理由に国家賠償を認めてもよいのではないかと思います。でも、現実はなかなか厳しそうです。

相続税の連帯納付義務の開示制度は一部改定されたが…

(5)改正法でも取り残された贈与税


ところで、平成23年、平成24年、相次いで相続税法34条の改正が行われました。また、それに先立つ法改正で相続時精算課税の制度が導入されましたが、その際、開示請求の制度が設けられました。

 

これにより、共同相続人の中に、相続時精算課税を利用している場合や、あるいは相続開始の前3年以内に贈与を受けたものがいる場合には、他の相続人は税務署長に対し贈与税の課税価額の合計額の開示請求ができることになりました(相続税法49条1項、2項)。

 

このように、相続税については、連帯納付義務についても開示制度についても一定の改正がされたのです。しかし、贈与税の連帯納付義務については、改正の対象とされていません。


ここでの教訓は、贈与に際しては、受贈者から贈与税分を差し引くなどして、その分を確実に納税させる手段を講じる必要があるということです。贈与税の納税義務者は受贈者だからといって放置しておくと、とんでもない目に合うということになります(ただし、贈与税を別途に支払ってしまうと、さらにその分につき贈与税がかかるので注意してください)。

 

この事例の元となった事件は現在裁判所で審理中であり、まだ最終的な結論は出ていないから確定的な事は言えません。しかし贈与税の連帯納付義務はとんでもない制度だということを理解してほしいのです。

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