連帯納付義務に基づく未納額の支払いを請求された長女
(2)遺産分割協議の解除について
<事案の概要>
法定申告期限までに両名は相続税の申告をしました。長男は、現金がないため延納の申請をしましたが、認められませんでした。長女も手持ち現金は持っていませんでしたが、代償金として5000万円取得することになっているため、他の家族から借金して自らの支払い税金分1800万円を捻出して支払いました。
ところがバブルの崩壊のため地価が値下がりし広大なレジャー施設は一向に売れません。長男は平成13年頃まで毎月100万円以上分納を続けましたが、会社は経営難に陥り、大阪国税局が一斉に不動産などの財産を差し押さえしました。
平成16年になり、レジャー施設はやっと3億円ほどで売却されましたが、抵当権者と国税が売却代金を全て持っていってしまい、結局、長女には1円も支払われませんでした。
平成19年に長男の会社は廃業となり、長男は支払不能の状況に陥りました。そうこうしているうちに、国税局から長女に未納額明細書が送られてきました。そこには、長男の相続税が1億円以上も未納になっていることと、長女に対し連帯納付義務に基づく未納額が3200万円あるからこれを支払うよう記載されていました。
長男が経営不振で廃業したことは薄々知っていたものの、まさか10年以上前の相続税が未納になっているとは考えてもいませんでした。
また、実際には1円も代償金をもらっていない自分が、なぜ3200万以上の税金を支払わなければならないのかも納得できませんでした。これから長女はどうしたらよいでしょうか。
今後、長女がとるべき手続を順次検討することにします。
債務不履行による法定解除を否定した判例
<遺産分割協議の解除と再分割>
遺産分割が終了し、税金なども支払った後でも、遺産分割をやり直したいと考える場面があります。相続人の1人が遺産分割協議で負担した債務を履行しなかった場合に、遺産分割協議を解除することは可能でしょうか。
ア 平成元年2月9日最高裁の判例(民集43巻2号1頁)
遺産分割に関して重要な判例があります。この最高裁判決は、一旦成立した遺産分割協議について、債務不履行による法定解除を否定した判例です。この事案は、遺産分割協議において共同相続人の1人(長男)が法定相続分より多い遺産の分割を受けるに際して、それまで別居していた母と同居し、母を扶養し、身の回りの世話をするなどの債務を負担したものの、長男がこれを履行しなかったのです。そのため他の相続人が債務不履行による法定解除を定めた民法541条に基づいて遺産分割協議の解除を通告したため、遺産分割協議の法定解除の可否が争われました。
最高裁判決は、法的安定性が害されることなどを根拠に、債務不履行による民法541条の法定解除権の行使による遺産分割協議の解除を否定しました。
そして、「遺産分割は、その性質上、協議の成立と共に終了し、その後は当該協議において債務を負担した相続人とその債権を取得した相続人間の債権債務関係が残るだけ」と判断したのです。